ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
高難度タンパク質微小結晶構造解析の汎用化を実現した迅速自動データ収集システムの開発HITOの実装も行った(図4).4.ZOOがもたらしたこと・これから図4 ZOOの概略図.(Components and function of ZOO.)INOCC(イノママニクリスタルセンタリング),SHIKA(スポットヲヒロッテイチヲキメルアプリケーション),KUMA(ケッショウヲウゴカシタリマワシタリスルアプリケーション),KAMO(カタッパシカラアツメタデータヲマニュアルヨリイイカンジデオカエシスル).した.スコアの重心位置を結晶の位置として決定してその角度での結晶の中心位置とした.その後,三次元的なセンタリングを実現するために相対的に90°ゴニオメータを回転させて縦方向のみのラスタースキャンを適用し,スコアの重心位置を結晶中心とした.最後に必要なフレーム数によってKUMAにより露光条件を決定してデータ収集を行う.単点露光の実装がうまくいったので,次にヘリカルデータ収集法の実装を行った.単点露光スキームとほぼ同様の工程に従い,最初の二次元スキャンの結果から結晶を見出した際に,回転軸方向に沿った結晶の両端を決定する.微小結晶の場合など必要に応じて微小ビームでスキャンを行う機能も実装した.この2つの端点に対して90°回転させた縦スキャンを実行することで結晶の上を走る直線ベクトルが三次元的に取得できる.この結晶ベクトルの回転軸上への投影を結晶サイズとして,KUMAにより露光条件を設定してシャッターレスヘリカルデータ収集を行う.ヘリカル測定の準備をするプログラムはHEBIという名前を冠している.HEBIによる最も顕著な成果は10×10×50μm程度の結晶14個からのデータ収集により2.7 A分解能での構造解析に成功した例である.22)BL32XUにおける熟練した測定者を真似て測定シーケンスを実装したため,手動測定よりもうまく測定できる場合が多い.さらに大小さまざまな結晶が一度に同じループにのってしまっている場合には小さな結晶からはMultiple small wedge法,大きな結晶の場合にはヘリカルデータ収集法を使い分けて適用するプログラム日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)現時点で自動データ収集システムZOOが行えることは熟練した実験者が行っていた工程を自動化したものにほかならない.無論,誰も予期せぬ状態や形状のループに出くわすなどで測定が失敗することもあるが,その確率はきわめて低い.高速化・効率化・工程の自動化が進み,ルーチン作業としての測定をやる必要がなくなったということは非常に大きなメリットなのではないだろうか?筆者はタンパク質結晶を用いた放射光における回折データ収集で“手動でなければできない”とされているものの多くは「曖昧な損傷量に対する知識・対応」が正体なのではないかと考えている.吸収線量が正確に結晶回折能の低減を定量的に予測できることを知っていて,吸収線量を見積もる方法を知っていれば,露光条件はその構造研究に必要な吸収線量のしきい値内で測定を行うだけの作業であり,特に結晶サイズが変化しない測定(単点露光を想定)では露光条件の設定は常に同じになる.この場合にはつまり,実験者は「ただ結晶をのせかえて,センタリングをして,決まった条件で測定を行う」だけの人である.ルーチンな測定を自動システムに測定を任せることができるとその間,コンストラクトを再検討したり,新たな結晶化条件を検討したり,ほかのアッセイをしたり等の知的生産活動に時間を費やすことが可能である.いずれ世界中の放射光施設で回折実験の自動化は進み,特殊な実験以外は自動測定へと移行するものと考える.プロジェクトにおいて研究すべき内容が多岐にわたればわたるほど,構造解析はより解析から分析へと位置づけを変えていくだろう.その一助として自動データ収集システムを利用していくことも研究方針の1つとして重要な選択肢であろう.一方,本当に手動で行わなければならないユニークな測定について想像力を巡らせ,開発を進めることが今後特に重要な課題になると考える.結晶化ロボットに結晶化を任せるように,ZOOでできる測定は自動で,そうでない測定法を創りあげていくのが人間の仕事になる.そういう時代なのではないだろうか.謝辞今回の結晶学会学術賞の受賞に関して多くの協力者の方々に感謝を申し上げます.私1人では決して実現できることのない仕事であったことに違いありません.一方で,私がビームラインの建設・開発,測定方法開発,放射線損傷の研究ZOOシステムの開発・高度化など,挫折や失敗を繰り返しながらも強い信念と日本を背負っているというある種自意識過剰な責任感をもち成功に向けて盲進し続けた結果でもあると自負しています.この89