ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
高難度タンパク質微小結晶構造解析の汎用化を実現した迅速自動データ収集システムの開発距離を入念に調査した.この実験により得られた放射線損傷伝播プロファイルを利用して吸収線量を見積もるプログラムKUMAの開発を行った.6)KUMAの開発によりヘリカルデータ収集の際の吸収線量計算が可能となり,X線エネルギー・ビームサイズ・結晶サイズ・測定フレーム数を与えれば指定した吸収線量の露光条件を決定できるようになった.これらのパラメータでビームラインで実験しなければわからないのは実は結晶サイズだけであり,それがわかれば露光条件はおのずと決まってしまう.これが“放射線損傷を定量化したこと”でより明確になった.この機能実装でほぼすべての測定が単純作業になったことは筆者にとって非常に印象深かった.この“気付き”は自動化に向けての1つの大きなポイントであったと言って良い.後述(HEBI)のように実際にはまだ豊富な経験を要する工程が残されていたが.さておき開発したここまでの測定システムを利用してBL32XUでは次々とLCP結晶を利用した膜タンパク質の高分解能構造決定を実現した.7-11)LCP結晶の位置をラスタースキャンで特定し,ヘリカルデータ収集法を適用して1個の結晶から構造解析に必要な角度分のデータを収集して構造解析を行っていた.とりわけ新規構造の場合には重原子(LCP結晶の場合は水銀が多かった)を利用した単波長異常分散法(SAD法)による位相決定を行うことが必須であった.主に東京大学・濡木研究室の優秀な学生・スタッフの皆さんの先進的・精力的な試料調製法の確立とビームラインBL32XUにおける測定技術開発を連動して行うことでビームライン初期フェーズにおける高分解能構造解析は成り立っていたように思う.この時期を振り返っていつも反省することがある.BL32XUで利用できるマイクロビームを利用することで微小結晶からでも高精度データ収集が行えるという自負から,筆者は盲目的に1結晶1データセットで構造決定が可能という偏った測定を利用者に押し付けていたのではないかということである.当時,濡木研の博士課程の学生であった熊崎薫氏(現・博士)が構造決定した膜組11み込み酵素YidCの構造決定)の際には最終的に15μm大の結晶から水銀SADデータ収集に成功した.おそらく今なお1結晶から位相決定された膜タンパク質結晶では世界最小なのではないかと思う.その一方で,この成功には最初のネイティブ結晶データの収集からおおよそ1年もの間,結晶化条件やコンストラクトの検討に費やされたと記憶している.ビームラインの性能がいくら向上しても,対象とするタンパク質結晶の性状・サイズに依存して構造解析が困難化する場合が多くあるということを強く示唆しており,複数結晶を利用した構造決定法の開発を少しずつ意識した検討を始めた.日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)図3 Multiple small wedgeスキームの説明.(Schematicdiagrams of multiple small wedge scheme.)各結晶はX線に対する三次元センタリングは行わず,二次元ラスタースキャンを行った正面角度±5°程度のデータを集積する.3.多数の結晶を利用する方法へこの時期に京都大学・岩田研究室の寿野良二博士から,GPCRの高分解能構造決定で複数結晶を利用することはできないかという相談を受けた.どうしても単結晶からのデータ収集では目標とする分解能の構造決定ができないという内容であった.すでにGPCRの結晶構造解析においては2007年頃から米国Advanced Photon Sourceにおいて,複数結晶を利用した高分解能構造決定の報告があった.12,13)クライオループ上にのった数十個もの微小結晶から部分的な,例えば10°分とか20°分,のデータ収集を行いそれらをマージして構造解析に必要なデータセットを完成させる方法である.1結晶1データセットの測定に限界を感じていたこともあり,筆者はこの共同研究を引き受けることにした.まず各試料ホルダー上に数~50個凍結したLCP微小結晶を受け取り,それらを測定対象として手動データ収集を行った.ユニパックに収められたクライオループをゴニオメータ上にマウントし,X線視点で最も大きく見える角度(以下,正面角度)を見つけ,外形をカバーするようにラスター領域を設定する.10μm角のビームを利用して高速低線量のラスタースキャンを行い,SHIKAにより見出された結晶位置を記録する.スキャンイメージ上に5Aより低角に10点以上のブラッグ反射が観測されればそこにデータ収集可能な結晶があるとした.通常のデータ収集時とは異なり,この方法では三次元的なセンタリング(ゴニオメータを回転させても結晶にX線が当たり続けるようにゴニオメータ座標を決定する)を“行わず”,正面角度でのスキャンで見出したすべての結晶位置へ10μm角のビームを照射して正面角度±2.5~5.0°分の回折データ収集を行う(図3).SHIKAでマークした座標はプログラムKUMAに転送し,利用するエネルギーやビームサイズ87