ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
平田邦生定を行っていた.シャッターレス測定ではその名のとおり水平方向の移動は一定速度,シャッターは開きっぱなしで検出器の読み出しを続けるという測定である.SPring-8で開発された多軸同期システムBlancを利用して,ゴニオメータの座標と取得するイメージを高速測定でも高い位置精度で同期させることに成功した.これによりラスタースキャンに要する時間を2~5分程度に短縮することができた.ラスタースキャンを行った場合,測定フレームは数百枚になることが多かった.それらの測定フレーム上に回折点があるか否かによって結晶の位置を特定するが,ラスタースキャンの速度が向上したことでその解析にかかる時間も甚大となった.そこでスキャンイメージ上のブラッグ反射と考えられるスポットを自動的に検出し,結晶位置を特定するプログラムSHIKAの開発を行った(山下恵太郎博士による).SHIKAは新たに測定されたラスタースキャンイメージを自動的に検出,イメージ上のブラッグ反射ピークを探し,各イメージにスコア付けを施し,最終的にゴニオメータの座標とスコアを対応させて結晶ヒートマップ(以下SHIKAヒートマップ)を作成するプログラムである.高速ラスタースキャンのシステム開発とSHIKAの開発により,結晶の有無・位置の検出までを高速化・自動化することに成功した.さらに高速計算機の導入を進め,ラスタースキャン直後に結晶のサイズや位置がSHIKAのGUI上に表示できるようになった(図2).2016年にはDectris社製のピクセルアレイ検出器EIGER X 9Mを導入し,コア数を増やしたPCクラスター上のSHIKA解析により100 Hzのラスタースキャンでも遅延なく結晶位置を決定することができている.ラスタースキャンに時間がかかっていた頃は,スキャン領域が小さくできるように試料結晶を少量ずつピックアップするといった実験者の手技が測定効率向上に重要であったが,高速ラスタースキャンおよびSHIKAの開発により“手技の良し悪しにより測定効率が劇的に変わることが少なくなった”と言える.これは利用者の拡大に非常に大きい意味をもっていた.またヘリカルデータ収集についてもより定量的な指標が求められた.ヘリカルデータ収集では実は吸収線量計算が非常に難しい.2つ理由がある.ヘリカルデータ収集法で利用するビームサイズは当時1μm(水平方向)×15μm(垂直方向)というラインフォーカスビームを利用していた.ヘリカルデータ収集法では損傷を結晶体積全体に分配することが重要であるという観点から,データ収集1フレームごとに露光点を並進させることが重要であるとされていた.この測定コンセプトからBL32XUでもビームサイズよりも短いステップ距離で露光点を移動させるヘリカルデータ収集を行っていた(1μmビームを0.5μmずつ並進するなど).X線によって照らされる結晶体積は1枚前の測定と直後の測定で重なってしまうため,吸収線量の計算は煩雑化する.これが第1の理由.5さらにAdvanced Photon Sourceからの報告)からミクロンオーダーのビームサイズを利用した回折実験の場合,発生した光電子が照射結晶体積から外側に逃げることにより照射体積で見かけ上放射線損傷が低減されるという報告があった.上記二点からマイクロビームを利用したヘリカルデータ収集法では吸収線量の事前見積が困難であった.そこで利用可能なエネルギー,ビームサイズ,タンパク質結晶の種類を変えながら100 K下において放射線損傷がどのようにタンパク結晶上を伝播するかその度合と図2SHIKAによるヒートマップ.(The heatmap of a detected protein crystal with SHIKA.)標準タンパク質試料ソーマチンを10μmビームでラスタースキャンした結果.左:最も回折点が写った回折像のサムネイル.右:ゴニオメータ座標上の結晶ヒートマップ.86日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)