ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

日本結晶学会誌62,84-90(2020)総合報告(学会賞受賞論文)高難度タンパク質微小結晶構造解析の汎用化を実現した迅速自動データ収集システムの開発理化学研究所放射光科学研究センター平田邦生Kunio HIRATA: ZOO: Development of Rapid & Automated Data Collection System forProtein CrystallographyAn automated data collection system has been developed with the beamline BL32XU at SPring-8.The ZOO system enables unattended data collection at synchrotron beamlines. It dramaticallyaccelerates high resolution structure determinations by taking full advantage of brilliant micro-focusedbeam available at BL32XU.1.ビームラインBL32XUの開発今回の学術賞受賞内容の研究・開発を説明するうえで必須な要素としてビームラインBL32XUの開発が挙げられる.2007年から文部科学省ターゲットタンパク研究プログラムの一環で,SPring-8にて微小結晶からの高精度データ収集を目的とした高フラックス微小ビームビームラインの建設・開発を行うことになり,筆者がそれを担当することとなった.当時,SPring-8タンパク質結晶構造解析ビームラインにおいて利用可能な最小ビームサイズはBL41XUの20μmであり解析可能な最小結晶サイズは30μm程度であった.10μm以下の微小結晶からの構造解析を実現するために,BL32XUでは1μm集光(当時放射光タンパク質結晶構造解析分野では世界最小),フラックス密度の目標値を10 10 photons/sec/μm 2(BL41XUの10倍にあたる)として光学設計を行った.ビームサイズは種々の微小結晶サイズに合わせて10μm程度まで自在に変更できることも必要要件とした.光源はSPring-8で開発されたハイブリッド真空封止アンジュレータとし,液体窒素冷却型二結晶分光器で分光した単色光を下流の輸送チャネルスリットで切り出して仮想光源を作り,試料上流のK-B配置のEEM(Elastic Emission Machining)ミラー(通称:大阪ミラー)で1μmに集光する設計とした.ビームの位置・強度の安定化のために光学素子の数を極力少なくし,回折計直前に曲率固定のEEMミラーを利用するというきわめてシンプルな光学設計とした.2009年10月に光学ハッチにファーストビームを導入し,同年11月末には試料位置への6×10 10 photons/sec,0.9μm集光に成功した1)(図1).このビームを利用して標準試料であるリゾチームの2μmサイズの結晶から2 A分解能の回折像を得る図1ビームラインBL32XUの高精度回折計.(Diffractometerat BL32XU.)X線上流(右側)から集光ミラーチャンバ,シャッターボックス,ゴニオメータ,低温吹付け装置,試料交換ロボットSPACE,ピクセルアレイ検出器Pilatus X 9M.ことに成功し,マイクロビーム利用による微小結晶構造解析が実現可能であることを確認した.いくつかの試験実験と装置導入・調整を経て,翌2010年5月からユーザ運転を開始した.初期のユーザ運転では,高フラックス・微小X線を利用したタンパク質結晶からの回折データ収集においていくつかの深刻な問題に直面した.2.BL32XU初期の頃の結晶構造解析最初に直面した問題は建設前から筆者の懸案事項でもあったタンパク質結晶の放射線損傷についてであった.結晶にX線を照射して起きるこの現象によって高精度データ収集が困難化したのである.実際にはタンパク質結晶の放射線損傷は回折実験では必ず起こり,それまでも問題にはなっていた.X線照射により結晶内で生み84日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)