ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
日本結晶学会誌62,80-81(2020)最近の研究動向価数選択構造解析が可能な蛍光X線ホログラフィー:YbInCu 4価数転移物質への適用熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)細川伸也広島市立大学大学院情報科学研究科八方直久奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科松下智裕名古屋工業大学大学院工学研究科林好一Shinya HOSOKAWA, Naohisa HAPPO, Tomohiro MATSUSHITA and KouichiHAYASHI: X-ray Fluorescence Holography Capable of Valence-Selective StructuralAnalysis: Application to an YbInCu 4 Valence Transition Material近年,蛍光X線ホログラフィー1)(XFH)法の発展は目覚ましく,物質の原子配列を元素選択的に三次元(3D)原子イメージとして描くことができ,これまで回折やXAFSでは容易にはできなかった,不純物のまわりの原2子配列)や隣接原子の位置ゆらぎ3)の情報を正確に得られるようになってきた.さらに最近の技術の検討から,4XFHには元素選択性に加え価数選択性)があることがわかってきた.この機能は,入射X線エネルギーを特定元素の吸収端付近に設定することにより達成できる.一方X線回折は,価数が異なる同じ元素では原子形状因子がほんの少しだけ異なるだけで,そのコントラストを得ることは非常に難しい.また,中性子回折ではまったく違いがない.さらにXAFSの場合には,価数の違いにより吸収端のエネルギーがシフトし,データは2つのXAFS振動の重ね合わせになり,データ解析はさらに困難を極める.本稿では,温度を変化させることだけによって価数を変化させることができるYbInCu 4価数転移物質を標準物質として,XFH法により価数の異なるYbイオンのまわりの原子配列を個別に求める方法が確立した5)ので,その原理,手法,結果および今後の展望を紹介したい.XFH法は,照射するX線エネルギーがある元素の吸収端より高いときに発生する蛍光X線を利用する.ターゲット元素に届く入射X線は,X線源から直接届くもの(標準波)と隣接原子によって散乱されたのちに到達するもの(物体波)があり,それらが干渉する.そのため,入射X線の方向に対する結晶軸の角度により,発生する蛍光X線強度におよそ2~3/1,000程度の変調が起き,これをホログラムと呼ぶ.通常のXFH実験では,8つ程度の異なった入射X線エネルギーでホログラムを測定し,フーリエ変換と重ね合わせをすることにより,特別なモデルを必要とせずターゲット元素のまわりの3D原子イメージを描くことができる.価数選択性は,入射X線を吸収端付近でのある価数のターゲット元素に特徴的なスペクトル構造を示すエネルギーに設定することにより,ある価数をもつ元素からのみ蛍光X線を発生させることが原理的に可能であることによる.YbInCu 4はC15b型fcc晶系で温度変化しないと思われている.6)Ybイオンは室温ではほとんど3価であるが,42 Kで2価イオンが20%程度突然現れ,それに伴いさまざまな物性に変化が現れる.6)2価イオンの原子半径は3価のものと比較して17%増加するが,格子定数は0.15%程度しか膨張しないので,2価イオンは結晶中で窮屈になっており,転移による大きな格子ひずみが想定される.図1は,300 K(□)および7K(■)でのYbInCu 4のYbLⅢXANESスペクトルを示す.低温での2価イオンの存在は,8.939 keVに現れる肩にはっきりと現れている.したがってこの入射X線エネルギーE 0を用いれば,Yb 2+イオンからのみ蛍光X線が放出されるため,Yb 2+イオンのまわりの原子配列を観測できる.一方,8 eVだけ高い図1YbInCu 4のYb LⅢXANESスペクトル.(Yb LⅢXANES spectra of YbInCu 4.)文献5)より引用.80日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)