ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2

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概要

日本結晶学会誌Vol62No2

X線異常散乱法およびX線吸収微細構造法による鉱物結晶中の微量遷移元素の局所構造決定図2 Mn-K吸収端AXS測定によるMn分布図.(Mndistribution maps obtained by the AXS measurement atthe Mn K-absorption edge.)とEPMAによる化学組成を制約条件として先の初期モデルを精密化することで,構造式(Al 0.82Mn 0.16Fe 0.02)[6](Al 0.99Fe 0.01)[5]SiO 5(空間群Pnnm,格子定数a=7.8538(9),b=7.9463(9),c=5.5867(6)A)が得られた.以上から,Mnは八面体席であるAl1席に濃集し,FeはAl1席とAl2席の両方に入ることがわかった.得られた構造モデルの特徴は,Al1O 6八面体が異方的な膨張を示していることである.<Al2-O>平均結合距離および<Si-O>平均結合距離は,Al 2SiO 5アンダルサイト4)のそれと有意な差はないが,<Al1-O>平均結合距離(1.955 A)はAl 2SiO 5アンダルサイトのそれよりも1.0%増加している.各結合長についてみると,Al1-O1およびAl1-O3結合距離の増加が0.6%である一方で,Al1-O4結合距離は1.9%の増加を示す。X線吸収端近傍構造(XANES)により,本アンダルサイト中のMnおよびFeの価数を評価したところ,どちらも3価の陽イオンであった.このことから,Al1席の異方的な膨張はAl1席に優先的に分布するMn 3+によるヤーン・テラー効果に起因すると考えられる.次にMn周囲の異方的な結合長変化を広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定によって詳細に評価したところ,Mn周囲での構造緩和が明らかとなった.Mn-K吸収端EXAFSスペクトルを単結晶X線回折法で得られた構造モデルを用いてMnがAl1席を占有しているとして多重散乱まで含めて計算した.この計算は実験結果をよく再現し,第2および第3近接配位の範囲でも実験値と一致した.第一近接配位のMn 3+ O 6八面体のMn-O1,O3,O4結合距離はそれぞれ1.96 A,1.87 Aおよび2.26 Aと求まり,Mnの配位環境がAlの場合と比較して歪んだ八面体であることがわかった.求まった<Mn-O>平均結合距離(2.03 A)がカノナイト[Mn 3+ AlSiO 5]の<Mn-O>平均結合距離(2.022 A)5)に一致することはMnの原子サイズおよびMn-O結合距離が維持されていること,すなわち,Mn周囲における構造緩和を示している.Mn含有アンダルサイト構造中のMnはMn含有量にかかわらず原子サイズを保持し,局所的なMn-O結合距離はMn端成分のそれと同等である可能性がある.Wangら3)の第一原理計算による研究は,アンダルサイトの八面体席に多形であるシリマナイトおよびカイヤナイトの八面体席と比較してより多くのMn原子が濃集する理由として,ほかのAl 2SiO 5多形と比べて小さなアンダルサイトの体積弾性率がMn 3+ O 6八面体の大きなヤーン・テラー歪みを許容していることを挙げている.この主張と本研究が実験的に示したアンダルサイト中のMn周囲における構造緩和を併せると,Mnの価数および結晶の硬さによって,Mnの席選択性および最大固溶量を制御できる可能性が得られる.Fe周囲についてもEXAFS解析を併用することで,次のような情報が得られた.Fe-K吸収端EXAFSスペクトルはMnの場合と異なり,Al1席とAl2席の両方に分布することを示しており,Al1席とAl2席のFeの量比が1:1と求まった.この量比は,構造解析で得られた値とほぼ一致する.また,これまでに報告されているMn含有アンダルサイトではFeは主にAl1サイトを占めており,全量の10~15%がA12席を占める.6)この報告におけるAl2席でのFe占有率(0.006~0.014)は本研究で用いたアンダルサイトの場合と大きく変わらないことから,既報と比較して,Feの総量が少ない本研究のアンダルサイトにおいてFeはAl2席を優先的に選択することが推察される.以上,鉱物中の微量元素を対象とした回折法とAXSおよびXAFSの相補的利用による結晶構造解析の試みについて紹介した.EXAFS解析は元素選択的に局所構造を評価する強力な手法であるが,その結果は構造モデルに強く依存することが知られている.本研究では通常の単結晶構造解析とAXS法から導いた結晶構造モデルをEXAFS解析に用いることで初めて,Mn含有アンダルサイトの平均構造解析の情報に対して,微量元素周囲の局所構造の知見を加えることができた.文献1)H. Arima, Y. Tani, K. Sugiyama and A. Yoshiasa: J. Mineral. Petrol.Sci. 113, 273(2018).2)D.Kitahara,H.Arima,T.Kawamata,K.SugiyamaandT.Mikouchi: J. Mineral. Petrol. Sci.(in press).3)Q. Wang, C. Liang, Y. Zheng, N. Ashburn, Y. J. Oh, F. Kong, C.Zhang, Y. Nie, J. Sun, K. He, Y. Ye, R. Chen, B. Shan and K. Cho:Phys. Chem. Chem. Phys. 19, 24991(2017).4)J. K. Winter and S. Ghose: Am. Min. 64, 573(1979).5)W. Schreyer, H. -J. Bernhardt, A. -M. Fransolet and T. Armbruster:Contrib. Mineral. Petrol. 147, 276(2004).6)I. Abs-Wurmbach, K. Langer, F. Seifert and E. Tillmanns: Z.Kristallog. 155, 81(1981).7)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)77