ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No2
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日本結晶学会誌Vol62No2
日本結晶学会誌62,76-77(2020)最近の研究動向X線異常散乱法およびX線吸収微細構造法による鉱物結晶中の微量遷移元素の局所構造決定一般財団法人総合科学研究機構中性子科学センター有馬寛Hiroshi ARIMA: Determination of Local Structures Around Trace Transition Elements inMinerals by Anomalous X-ray Scattering and X-ray Absorption Fine Structure Analyses鉱物が見せる美しい色彩は興味深い物理的特性の1つである.ケイ酸塩鉱物やリン酸塩鉱物は本来無色あるいは白色であるものが多い.しかし,遷移金属元素を微量に含むことによってさまざまな色彩が現れる.例えば,ベリル[Be 3Al 2Si 6O 18]族ではレッドベリル,エメラルド,アクアマリン,ヘリオドールといった宝石名をもつ石が天然に産出し,それぞれ美しい着色で知られている.このような遷移金属元素による鉱物の色彩は結晶場理論を介して元素の種類や存在様式(結晶中での占有席,酸化状態および化学結合性)に強く関係している.したがって微量の遷移金属元素の存在様式を明らかにすることは,構造物性の観点から鉱物の色を理解することにつながる.また,鉱物の色の理解は材料としての可能性を広げる.鉱物の結晶構造は光学材料として広く利用されており,レーザー結晶としてのCr添加コランダム(ルビー)[Al 2O 3]やシンチレータ結晶としてのMn添加アパタイト[Ca 5(PO 4)3F]など,そこでは微量元素が重要な役割を担っている.最近,筆者らは天然鉱物を対象として元素選択的構造解析による微量元素の局所構造解明に取り組んできた.1,2)単一の波長を用いた通常のX線回折法による構造解析によって得られる構造モデルは主要元素と微量元素の存在比に対応した線形和すなわち平均構造に限られる.したがってこのような構造モデルで着目する微量元素周囲の局所構造を定量的に評価することは困難である.また原子番号が隣接する複数の微量元素を区別する場合,単一波長によるX線回折法では原子散乱因子の差が微小であることから,不確実性が生じる.これらの課題を解決するためには平均構造の情報と元素識別が可能なほかの測定手法による元素種ごとの直接的な構造情報を組み合わせる必要がある.本稿では単結晶X線構造解析にX線異常散乱(AXS)法およびX線吸収微細構造測定(XAFS)を取り入れることでMn含有アンダルサイト[(Al 2-x-yMn xFe y)SiO 5]の局所構造を調べた例1)について紹介する.アンダルサイトの安定性および光学特性は,遷移金属の置換およびその配位環境に強く依存する.3)アンダルサイトの結晶構造は図1に示すようにSiO 4四面体とそれぞれ6配位と5配位の環境をとる2つのAl席(Al1とAl2)から構成されている.測定にはスウェーデン・スコーネ産のMnおよびFeを微量に含み,鮮やかな緑色を示すアンダルサイトを用いた.化学組成はEPMA分析によって(Al 1.81Mn 0.16Fe 0.03)SiO 5と求まった.MnおよびFeのAl1席およびAl2席への分布をAXSと単結晶構造解析によって決定した.まずMo-Kα線を用いた単結晶X線回折測定から構造式Al[6]Al[5]SiO 5として構造精密化を行い,Al1席付近に有意な差フーリエピークがあることを確認した.次に,Mn-K吸収端およびFe-K吸収端について単結晶AXS測定を行い,各元素の分布を調べた.図2にMn-K吸収端-25 eVと-150 eVの入射X線エネルギーで測定した2つの回折強度データの差フーリエ合成により得られたz=0と0.25におけるMnの分布図を示す.Mnの電子密度のピークはAl1席で明確に観測されたが,一方でAl2席にはMnの電子密度のピークが観測されなかった.また,Fe-K吸収端でのAXSデータから求めたFeの分布図では,FeがAl1席とAl2席の両方に分布していることが観測された.これらの席選択性図1アンダルサイトの結晶構造.(Crystal structure ofandalusite.)描画にはVESTA 7)を使用.76日本結晶学会誌第62巻第2号(2020)