ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
スパース・モデリングを用いた広域X線吸収微細構造の解析σnoise =5.7×10 ?1図1 EXAFS過程の概要.(Schematic Diagram of EXAFSprocesses.)χ(k)×k 3?20?1001020が観測される.E0より高エネルギーのX線吸収で,対象2原子は波数k=2m( E ? E )0?の光電子波を放出するが,このEXAFS振動信号は,その光電子波と近接原子で後方散乱された光電子波との干渉によって,電子状態が変調された結果である.EXAFS計測では放射光が利用され,X線透過法や,X線吸収によって観測される蛍光X線を検出する方法など,多彩な計測法が開発されるとともに,試料の形態に自由度が高く,結晶に限らず非結晶や液体状態においても,近傍原子の動径分布関数の情報を解析することが可能である.このようにEXAFS計測は高い汎用性があるため,固体物理学に限らず,材料科学や,合成化学,生物学においても重要な計測法となっている.図2は本稿で対象とするデータである.これは,九州シンクロトロン光研究センターのBL11において透過法で計測した銅箔のEXAFS振動信号で,従来と同様にAthena 13)を用いて前処理を行った.横軸は波数kで,縦軸はkが大きな領域の振動構造を強調するため,k 3の10,11荷重項)を掛けて示した.測定温度は室温である.EXAFS振動信号は,k~0付近からk 3項によって振動振幅が大きくなり,k>10 A-1の高波数側で振動振幅は減少する.この振動振幅の変化は,さまざまな物質においても共通した特徴で,基底関数に組み込んでスパース・モデリングの汎用的活用が可能となる.しかし従来は,EXAFSの振動波形をフーリエ変換して議論される.図2のフーリエ変換を図3に示した.横軸は選択原子からの動径距離で,0~9.97 Aの範囲を示した.実際の解析では離散フーリエ変換などを用いるとはいえ,フーリエ変換は動径距離の連続関数を得る方法である.しかし実際の物質・材料で近接原子は,その化学構造や結晶構造を反映して,特定の距離で配位,つまり動径距離に対してスパースに配位しているはずであり,フーリエ変換では,そのスパース性が組み込めていない.日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)χ(r)05101520250 5 10k (A°15 20?1 )図2 EXAFS振動構造.(EXAFS oscillation.)0 2 4r (A°6 8 10)図3フーリエ変換で得られる近接原子の動径分布.(Radialdistribution of neighbor atoms derived by Fouriertransformation.)図3のピーク構造の強度に注目すると,第一近接原子に対応する~2.1 A付近のピークが一番強く,強度の変動はあるものの,遠距離になるに従って系統的にピーク強度が減少する傾向がある.一方,EXAFSでは光電子波の干渉現象を用いるため,解明できる近距離構造がその平均自由行程で制限されるが,その制限と,フーリエ変換スペクトルのピーク強度の減少傾向とは本質的に異なる.このピーク強度の減少は,フーリエ変換が,動径距離方向の伝播で振幅減衰のない連続波として展開するためである.言い換えると,平均自由行程が既知であれ3