ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
クリスタリットシミュレーテッドアニーリングSimulated Annealing最適化問題を解くためのメタヒューリスティクス(個々の問題の性質に依存しない発見的解法)の一種.焼きなまし法とも呼ばれる.シミュレーテッドアニーリングは,マルコフ連鎖モンテカルロ法や分子動力学法などと組み合わせて使われる.通常の勾配降下法を用いて多数の谷をもつ複雑なエネルギー関数の最適化を行うと,簡単に局所最適点に捕らわれてしまう.しかしながら,系の温度が十分に高ければ,温度程度のエネルギーバリアを超えて,局所最適点から抜け出すことができる.シミュレーテッドアニーリングは,シミュレーションの温度を高温から徐々に下げていくことで,大域的な最適点に到達する手法である.また,物理的なエネルギーの最適化だけでなく,仮想的な「温度」を導入することで,組み合わせ最適化問題などのより一般的なコスト関数に対しても適用することが可能である.近年では,温度によるエネルギーのゆらぎではなく,量子的なゆらぎ(トンネル効果)を利用してエネルギー障壁を乗り越える,「量子アニーリング」も実用化されている.(東京大学大学院理学系研究科藤堂眞治)Bijvoet比Bijvoet Ratio全散乱強度に対する異常散乱強度の期待値の〈|ΔF±|〉/〈|F|〉.散乱角に依存する量であるが,Hendrickson(1981)らによる散乱角ゼロでの見積(2N A/N P)1/2(f”/Z eff)が,その結晶から期待される異常分散シグナルとしてよく用いられる.ここで,f”=異常散乱項の虚数成分(イオウの場合,波長2.0 Aで約0.95電子,波長2.7 Aで約1.5電子)N A=非対称単位中の異常散乱原子数N P=非対称単位中の全原子数(水素除く)Z eff=平均的なタンパク質の原子の実効的な電子数(=6.7)である.Wang(1985)は誤差なしの反射データによるテスト計算を行い,この値が0.6%以上あればSAD法による位相決定の可能性があるという理論限界を示した.(高エネルギー加速器研究機構松垣直宏)ミニカッパーゴニオメータMini-Kappa Goniometerタンパク質結晶構造解析用ビームラインの回折計の試料主回転軸(オメガ軸)上に設置される,小型の結晶方位調整機構.4軸回折計の軸名にならってカッパー軸,ファイ軸と呼ばれる軸(仮想軸の場合もある)をもつ.簡易な機構なため,通常はカッパー・ファイ軸で方位を変更した後に試料をビーム上にアライメントし直す必要があるが,これを自動化したものも存在する.多方位で測定することによる吸収誤差の平均化,試料の軸立て(主回転軸と逆格子軸の方位を合わせる),近接した回折点の分離,などの目的に使うことができる.(高エネルギー加速器研究機構松垣直宏)吸収補正Absorption Correction試料結晶によってX線が回折する際,試料中のビーム経路に応じた吸収が起こる.データ処理において,回折X線の強度に対してこの吸収分による減少を補正するのが吸収補正である.吸収補正は,試料の形状・組成,ビームに対する試料結晶の方位などの情報を用いて数値計算することが原理的に可能である.しかし実際の実験においては必要なすべての情報を収集することが困難であるため,半経験的な方法が使用されることが多い.そこでは新たなパラメータを導入し結晶学的に等価な反射の強度差を小さくする補正が行われる.長波長X線を用いた回折実験では吸収効果が非常に大きいため,試料が球などの特殊な形状でない限り,半経験的方法では適切な補正ができない.(高エネルギー加速器研究機構松垣直宏)64日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)