ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

クリスタリットここでλはスパースネスを制御するパラメーターであり,値を増やせば0となるパラメーターの数が増加する.機械学習などにおいて,過学習(オーバーフィッティング)を避けるためなどに用いられる.(奈良先端科学技術大学院大学/高輝度光科学研究センター松下智裕)オージェ電子Auger ElectronX線や電子線などによる励起により原子の内殻準位にコアホールが形成されると,外殻電子がコアホールに遷移し,その準位差のエネルギーを別の外殻電子が受け取って,放出されるものがオージェ電子と呼ばれる.例えばK殻にコアホールが形成された場合,L殻の電子がコアホールに遷移し,L殻の別の電子が放出される場合はKLL遷移と表記する.蛍光X線放出と競合する過程であり,原子番号が小さいほどオージェ電子の割合が増す.光電子は光エネルギーによって電子の運動エネルギーは変化するが,オージェ電子は変化せず,元素に固有のスペクトルをもつ.物質の組成分析などに利用される.(奈良先端科学技術大学院大学/高輝度光科学研究センター松下智裕)主成分回帰Principal Component Regression初等統計処理としてよく知られている主成分分析は,あるデータセットの「分散を最大」にする線形回帰係数を第1主成分とし,第2主成分は第1主成分と直交しかつ分散を最大化するように決定する.これを繰り返して第n主成分,言い換えるとn次元の直交軸を作っていくと,それらは直交基底関数系を形成する.直交関数系で作られる空間にある元のデータセットは,各軸成分の線形和によって回帰できる.こうした主成分による線形回帰を主成分回帰と呼ぶ.ここで「分散最大」を「二乗誤差最小」と置き換えた回帰が最小二乗法となる.((国研)物質・材料研究機構石井真史)位相的データ解析Topological Data Analysis位相的データ解析とは数学の位相(トポロジー)の概念を活用したデータ解析手法の総称である.トポロジーとは,図形の「つながりぐあい」を研究する数学分野で,連結性,穴,リング構造,空隙といった形状を特徴付け,その性質を調べる.位相的データ解析はこういった構造を利用しデータの形を特徴付ける.代表的な位相的データ解析の手法としてはパーシステントホモロジーやマッパーといった手法が知られている.日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)参考文献H. Edelsbrunner, J. Harer:“Computational topology: an introduction”,American Mathematical Soc.(2010).G. Carlsson: Topology and data, Bull. Amer. Math. Soc. 46, 255(2009).(理化学研究所革新知能統合研究センター大林一平)パーシステントホモロジー解析Persistent Homology Analysis位相的データ解析の代表的手法で,連結性,穴,リング構造,空隙といった形状を活用し,データのマルチスケールな特徴を定量的に特徴づけることができる.理論的には図形の増大列におけるリングや空隙の発生と消滅を対応付けることでデータのマルチスケールな幾何的情報を特徴づける.Edelsbrunnerら(2002)によって提案された手法で,材料科学を始めとして,遺伝データの解析や医療画像解析といった分野でも活用が始まっている.入力データとしては点集合や二値画像,グレイスケール画像などが利用可能である.点集合の場合はMDシミュレーションや逆モンテカルロ法で得た原子配置データを解析する例が多い.画像は各種顕微鏡の画像やCT画像などを解析できる.ガラス,粉体,ポリマー,タンパク質,焼結鉱,磁区構造,といった対象のシミュレーションデータや計測データの解析に用いられている.乱雑な,または非一様な,形の定量化に強みがあるというのが筆者の意見である.(理化学研究所革新知能統合研究センター大林一平)データ同化Data Assimilation気象・気候のシミュレーションにおいて最初に導入されたデータ科学的手法.気象シミュレーションにおいては,シミュレーションに必要な初期条件を完全に知ることは不可能である.また,シミュレーションの数理モデルは,初期条件やモデルパラメータに非常に敏感であり,わずかな不確定性が計算結果に大きな誤差を生じる.その一方,実際の観測データは,それぞれの測定点において時々刻々と変化する物理量を正確に測定することができるが,シミュレーションで用いるメッシュと比較すると,観測可能な点の数は非常に限られている.データ同化では,ベイズ推定の手法を用いてこれらの性質や精度のまったく異なるデータを組み合わせることで,初期状態やシミュレーションモデルのパラメータにおける不確定性を減らし,シミュレーションによる予測の精度を高めることができる.近年,物質科学などほかの分野への応用も進みつつある.(東京大学大学院理学系研究科藤堂眞治)63