ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

松垣直宏,山田悠介,引田理英,平木雅彦,千田美紀,千田俊哉AB図8BL-1Aにおいて,波長2.7 AのNative SAD位相決定によって解かれた構造の分布.(Distribution of the solvedstructures by native SAD phasing with 2.7 A wavelength at BL-1A. A: 266 kDa T2R-TTL, B: a protein with low sulfurcontent.)他所においてNative SAD法で解かれた構造,およびSAD法で解かれたすべての構造の分布を重ねて示す.4)Bijvoet比0.6%は,位相決定が可能とされる理論限界.4線量・多方位測定)により4データセットずつ収集した(1データセットは振動角0.1度,360度分).そのうち2個の結晶からの8データセットをマージし,redundancy約47,分解能3 A程度のデータを得た.非対称単位中に2分子,1分子178残基中1個のMetのみ(Cysなし)で,バッファー中にも異常散乱原子は存在しない難しい例であったが,AutoSHARP 20)により2個のイオウのsubstructureが問題なく決定され,続く自動モデリングでほとんどすべての残基が構築された.4.結晶中の軽原子の同定長波長X線のもう1つの重要な応用は,結晶中の軽原子・イオンの異常分散効果を用いた同定である.吸収端がBL-1Aの利用可能な波長範囲に含まれるカルシウムについては,厳格な同定が可能である.吸収端を挟む波長2.7 Aおよび3.15 Aの両方でデータ収集を行い,波長3.15 Aのデータによる電子密度マップで異常分散ピークが消えることを確認することで,LH1-RC複合体中のカルシウムイオンの位置があいまいさなく決定された.21)まだ実例はないが,カリウム同定のために吸収端3.44 A前後でデータ収集することも可能である.5.まとめNative SAD位相決定の成功には,試料のサイズに最適な長波長X線を使用した高精度回折データ収集がカギであり,そのためには,高輝度長波長X線ビーム,低バックグラウンド測定環境,回折強度を低ノイズかつ高速に測定できるX線検出器,試料(結晶)の加工による最適化など,すべての要素が重要である.10年前のビームライン建設当初において不可能であったこれらの技術が現実のものとなり,Native SAD法は,新規タンパク質結晶の位相決定法として最初に試してみるべき方法に変わりつつある.軽原子の同定も含め,長波長X線をよりいっそう活用して結晶構造解析を展開していただきたい.謝辞Photon Factory MXビームラインサポートメンバーに感謝します.レーザー加工機の利用・導入には理化学研究所放射光科学研究センターの河野能顕氏,山本雅貴氏に協力いただきました.ポールシェーラー研究所のMeitian WangグループがBL-1Aを利用して得た成果を一部紹介しています.本研究は,文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム(TPRP,2007-2011),創薬等基盤技術開発プラットフォーム事業(PDIS,2013-2017),AMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業(BINDS,2018-)によって支援されました.文献1)W. A. Hendrickson: Acta Cryst. A69, 51(2013).2)W. A. Hendrickson and M. M. Teeter: Nature 290, 107(1981).60日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)