ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

長波長X線を利用したタンパク質結晶構造解析a)b) c)I/sigICrystalnumber図6試料のレーザー加工とその効果.(laser shaping ofsamples and the effect.)a)加工例(溶媒除去,球,団子),b)波長3.3 A,振動角0.1度,360度分の3,600枚のフレームに対するスケール因子の変化,c)波長2.7 Aで収集した6個の結晶からのデータ統計値(I/sigI).加工前(青)に比べて球加工後(赤)で大きな改善が見られる.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.能で,自由度は大きい(図6a).結晶を球状にした場合は特に,フレーム間のスケーリングや吸収補正の角度依存が単純になり,長波長X線による回折データ精度が大幅に向上する(図6b,c).3.Native SAD位相決定の現状3.1最適な波長の選択図7は,理想的な測定環境下において,結晶中のイオウからの異常分散シグナルが得られる効率をプロットしたものである.15)ここで理想的とは,ビームパス上の空気の吸収が無視でき,球状に加工された‘裸’の結晶に一定のサイズ(ただし結晶サイズよりは小さい)のX線ビームを照射したとする.これは球状加工した結晶をBL-1Aにおいて測定したケースに相当する.最も効率良く異常分散シグナルが得られる波長は結晶のサイズによって大きく変わり,例えば100~150μm程度の大きさの結晶に対しては2.7~3.0 Aが最適となる.これはBL-1Aを用い7,15た最近の実証研究)と良い一致を示す.一方,結晶周辺の溶媒の存在とビームパス上の空気を仮定して,通常のMXビームラインでの測定をシミュレートすると,最適波長は結晶のサイズによらず2.1 A付近となり,15)こち16らも過去の研究結果)とよく一致する.この図からは,理想的な測定環境下において,結晶のサイズが小さいほどより長い波長を使うべきと読める.しかし実際は2.7 Aより長い波長でX線検出器の検出効率が落ち始めることもあり,2.7 Aに対してより長い波長のX線を使うことの有効性はこれまでのところ明確には示されていない.15,17)日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)図7理想測定環境下における,イオウの異常散乱効率の波長および試料サイズ依存性.(2D contourplots of theoretical anomalous diffraction efficiencyfor sulfurs under an ideal measurement condition).3.2 BL-1Aにおける位相決定成功例これまでBL-1AにおいてNative SAD位相決定に成功したタンパク質結晶(リゾチームやソーマチンなどの標準タンパク質を除く)の分布を示す(図8).すべての位相決定において波長2.7 Aで収集されたデータが使用された.一方,ヘリウムチャンバーの利用は2016年以降,レーザー加工機の利用は2019年以降である.BL-1Aの分布は,他所においてNative SAD法で解かれた構造の分4布)をほぼカバーしている.タンパク質の大きさでは分子量266 KDaであるtubulin complexの位相決定に成功している.15)また,異常分散効果が非常に小さいタンパク質2結晶(シグナルの強さの目安であるBijvoet比)が0.8%)の位相決定にも成功した.このタンパク質結晶の場合,波長2 Aを用いたとするとBijvoet比はWangの理論限界とされる0.6%18)以下のため,位相決定は困難であったと考えられる.15)3.2.1 266 kDa tubulin complex T2R-TTLの位相決定500×70×50μm 3の大きさの結晶をできるだけ溶媒が少なくなるようマウントし,カッパー角を変えながら低線量で14データセットを収集した(1データセットは振動角0.2度,360度分).マージしたデータのredundancyは約178,分解能は約3 Aとなった.非対称単位中に1分子,118S,13P,2Cl,3CaのsubstructureをSHELXDで決定し,CRANK2パイプライン19)によって2,363残基中2,152残基が自動モデル構築された.3.2.2イオウの含有量が非常に少ないタンパク質結晶(Bijvoet比0.8%)の位相決定大きさ150×100×100μm 3程度の10個の結晶を通常どおりマウントし,X線ビームスキャンにより結晶位置と回折能を確認後,深紫外レーザー加工機によってそれぞれ直径80~100μmの球状に加工した.各結晶から低59