ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

松垣直宏,山田悠介,引田理英,平木雅彦,千田美紀,千田俊哉Cryo-nozzle193nmLaser headGalvano mirrorCryo-nozzleOAVMini-kappagoniometerSamplechanger40°GoniometerSampleexchange portSample positionInteracting point図4BL-1Aの試料周辺とミニカッパーゴニオメータ.(Sample environment at BL-1A with the mini-kappagoniometer.)図5深紫外レーザーによる結晶加工機の外観.(Outlookof the crystal shaping machine by Deep-UV laser.)カルダイレクトドライブ(QKSU-SDD,神津精機製)が用いられている.最大回転速度720度/秒,芯ブレ1μm以下とエアベアリングと同等の性能をもつ.回転軸上には試料センタリング用の直交ステージに加えてミニカッパゴニオメータが設置されており,試料の方位を40度程度まで変化させることができる(図4).X線検出器は,ヘリウム雰囲気で運転可能なDECTRIS社製のEIGER X 4Mが設置されている.計数型のピクセルアレイ検出器のため読み出しノイズの影響を受けにくく,微弱な回折X線を検出するのに適しているとともに,高フレームレート(最大750 Hz)でのデータ読み出しができる.検出器は上下に並べて2台設置されており,通常は下側の検出器を水平配置にして実験が行われるが,2台の検出器をそれぞれ25度傾けV字配置にして同時に読み出すこともできる(図2).この配置でカバーできる回折角(2θ)はほぼ90度に達し,高分解能データの収集時に用いられる.回折データはほかのMXビームラインと共通の大容量ストレージに,専用の10 Gb/s高速ネットワークを使って書き込まれる.すべてのビームライン操作は,PFのMXビームラインで共通の統合GUI(UGUI)ソフトウェアを用いて行われる.リモートモニタリングシステム(PF Remote MonitoringSystem:PReMo)9)により,ユーザーは実験の進行状況をWEBインターフェースで確認できる.また,各データセットの収集後,PReMoによって起動される自動処理パイプラインによりバックグラウンドでデータ処理プロセスが走り,完了次第,結果がWEB上に表示される.2.2深紫外レーザーアブレーションによる試料加工タンパク質結晶は通常,自身が成長した結晶化溶液やクライオプロテクタント溶液とともにサンプルホルダー(ナイロンループなど)上で凍結・固定される.長波長X線による回折を考えたとき,それら試料自身によるX線の吸収は大きく,その効果は試料の構成や形状・サイズに依存して大きく変わる.通常のデータ処理で用いられる半経験的な(試料の形状を仮定しない)吸収補正を行うと,不正確な補正により回折強度に含まれる微弱な異常散乱シグナルを埋没させてしまう.そのため,X線トモグラフィーなどで評価した試料形状に基づいた解析的吸収補正が検討されているが,実用にはまだ困難がある.一方で,試料自体による吸収を低減する方法として,結晶周辺の溶液を吸引した状態で凍結させる方法(溶液フリーマウント)が開発され一定の成功が得られている.10,11)しかし,特殊なサンプルホルダーを使用しなければならないこと,結晶自体の形状に起因する吸収補正は依然として必要であることなど,課題も存在する.深紫外レーザーのアブレーション効果を利用した試料加工技術は,当初タンパク質結晶の良質部分の切り出し等の目的で開発された.12-14)最近,この技術を長波長X線によるデータ収集に用いることで,データ精度に大きな改善が得られることがわかってきた.図5に,理研播磨研究所で開発されPF-AR北西実験棟に移設された加工装置を示す.標準的な方法でサンプルホルダーにマウントされた試料は,MXビームラインと同様の手順でサンプルチェンジャーにより低温ガス気流下に設置される.ビーム径8μm(FWHM),波長193 nmの深紫外レーザーをガルバノミラーによって高速にステアリングし,ゴニオメータの回転動作との組み合わせで試料を指定した形状に加工する.1つの試料の加工に要する時間は,交換も含め一般的に10~20分程度である.LCP(LipidicCubic Phase)中で成長した結晶など,試料中における結晶の視認が困難な場合は,加工前にX線によるビームスキャンなどで位置決めしておくことが必要である.加工方法としては,試料の結晶以外の溶媒部分の除去や,結晶自体を球や円柱などの軸対称形状への成形が可58日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)