ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

藤堂眞治,常行真司図3図4Number of structures30204α/9k B= 010030204α/9k B= T m10030204α/9k B= 2T m10030204α/9k B= 4T m10030204α/9k B= 10T m100-54.0-53.5-53.0-52.5-52.0-51.5コーサイトに対するデータ同化構造最適化により得られた最終的な結晶構造の全エネルギー分布.(Total energy distribution of final crystal structureobtained by data-assimilation structure optimizationfor coesite.)全エネルギーのみを最適化した場合(α=0),2,500回の試行においても正しい結晶構造は1回も得られない.重みパラメータαの値を大きくしていくと,徐々に正しい結晶構造(赤)が得られるようになる.4α/9k Bが融点の数倍程度のとき,最も高い確率で正しい結晶構造にたどり着けることがわかる(文献17)より転載).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.Energy (eV/SiO 2)potential energy surface4.新しい同時最適化手法energy surfaceoptimized in the simulationpotential barrierCrystallinityデータ同化構造最適化における結晶化度と全エネルギーの時間発展.(Time evolution of crystallinityand total energy during data-assimilation structureoptimization.)青点線が全エネルギーを表す.左下の準安定状態が出発点である.ハイブリッドコスト関数(赤線)を最適化することで,ポテンシャルの壁を超え,右下の正しい結晶構造にたどり着くことができる(文献17)より転載).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.前節では,データ同化の考え方に基づいたハイブリッドコスト関数に対してシミュレーテッドアニーリングを用いて最適化を行った.通常の同時最適化では,複数のコスト関数を足し合わせた関数の最適点を探索する.しかしながら,われわれがここで考えているコスト関数は,通常の同時最適化とは質的に異なる特性を備えてCost図5f 2 (x)f 1 (x)GDInitial statef 1 (x) + f 2 (x)COMGlobal minimumPhasespace新しい同時最適化手法(COM)の概念図.(Conceptof combined optimization method(COM).)この最適化手法では,コスト関数の和(灰色点線)の最小点を探索するかわりに,複数のコスト関数(赤実戦と青点線)に共通する極小点(中央の黒丸)を探索する.通常の勾配降下法(GD:Gradient Descent)では,足し合わせたコスト関数の極小点(左上の黒丸)に捕らわれてしまう.一方,COMでは,2つのコスト関数の勾配を分けて扱う.両者の符号が揃っている場合には,勾配の方向に進むが,どちらかの符号が反転した場合も,それまでの方向に進み続ける.一方,両者の符号が同時に反転した場合には,その軸に対する進む方向を反転し,さらに全体のステップ幅を小さくすることで,共通する極小点のまわりで減衰振動していく.このように,COMでは,局所最適点に捕らわれることなく,共通する極小点にたどり着くことが可能である(文献18)より転載).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.いる.すなわち,2つのコスト関数は共通の大域最適点(=正しい結晶構造)をもつが,一方で,局所最適点の分布はまったく異なっている.この特性を考慮に入れ,われわれは新しい同時最適化の手法(COM:CombinedOptimization Method)を提案した.18)この手法の概念を図5に示す.この最適化手法では,コスト関数の和の最小点を探索するかわりに,複数のコスト関数に共通する極小点を探索する.すなわち,それぞれのコスト関数の値そのものではなく,勾配の情報のみを用いる.すべてのコスト関数の勾配の符号が反転した場合に限って,最適化の方向を反転する.このように,記憶効果をとり入れることで,それぞれのコスト関数の局所最適点に捕らわれることなく,抜け出すことが可能となる.また,すべてのコスト関数に共通する極小点にたどり着いたときのみ,最適化は停止する.図6に,SiO 2のまた別の多形である低温型クリストバライト(空間群P4 12 12,単位格子は12原子からなる)に対するデータ同化構造最適化により得られた最終的な結晶構造の全エネルギー分布を示す.計算には48原子を含む,2×2×1のサイズの超格子を用いた.コスト関数の和に対してシミュレーテッドアニーリングを使う場合と比べて,新しい最適化手法を使うことで,成功確率が54日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)