ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
- ページ
- 57/80
このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている57ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている57ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol62No1
日本結晶学会誌62,51-55(2020)?特集結晶学と情報学の融合X線回折実験とシミュレーションのデータ同化による結晶構造解析東京大学大学院理学系研究科藤堂眞治,常行真司Synge TODO and Shinji TSUNEYUKI: Crystal Structure Analysis by Data Assimilation ofX-ray Diffraction Experiment and SimulationPrediction of crystal structure from the chemical composition has been a long-standing challengein natural science. Although various numerical methods have been developed over the last decades,it remains still tricky to numerically predict crystal structures comprising more than several tens ofatoms in the supercell. We propose a new“data assimilation”approach for crystal structure predictionfrom numerical simulations with support of X-ray diffraction experimental data. We show that evenif the experimental data is insufficient for conventional structure analysis, it can still support andsubstantially accelerate structure simulation.1.はじめに近年,第一原理電子状態計算手法の発達やスーパーコンピュータの性能向上により,複雑な構造をもつ物質のシミュレーションが可能となってきた.また,シミュレーションソフトウェアのオープンソース化も進み,専門家でなくとも手軽にシミュレーションを実行できる環境も整ってきている.1)-4)原子配置Rが与えられると,モデル化された原子間ポテンシャル,あるいは密度汎関数理論に基づく第一原理電子構造計算により,系の全エネルギーE(R)を精密に計算することができる.原理的には,全エネルギーを最小化する原子配置Rを求めることで,安定結晶構造が得られる.しかしながら,複雑な物質の結晶構造を現実的な時間で予測することは,シミュレーション技術の発達した現代においても,依然として非常に難しい問題である.その理由の1つに,構造最適化に必要な時間スケールの問題がある.シミュレーションで得られる全エネルギーの多次元ランドスケープには非常に多くの局所最適点がある.5)通常の勾配降下法などでは,簡単に局所最適に捕らわれてしまい,大域的な最適点,すなわち真の結晶構造を見つけ出すには指数関数的に長い時間が必要となる(図1).この困難を解決するため,「メタヒューリスティクス」と呼ばれるさまざまな最適化手法が開発されてきた.代表的な手法としては,ランダムサーチ,6)シミュレーテッドアニーリング,7)遺伝的アルゴリズム,8)粒子群最適化,9),10)交換モンテカルロ,11)ベイズ最適化12)などが挙げられる.一方,X線回折をはじめ,物質の原子構造を調べるためのさまざまな回折実験技術が開発され,固体物理や生日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)図1IncompleteExperimental DataIntensity2θAccurate Calculation[? 1 ]2∇2 + V (r, t)ψi(r, t) =?i(t)ψi(r, t)EnergyD(R)F(R)E(R)RX線回折実験とシミュレーションのデータ同化の概念図.(Concept of data assimilation of X-ray diffractionexperiment and simulation.)横軸は結晶中の原子配置Rを表す.シミュレーションで得られる全エネルギーE(R)は多くの局所最適点をもつ(青線).データ同化手法では,全エネルギーとX線回折ピークの実験との一致度D(R)を組み合わせたハイブリッドコスト関数F(R)を導入する(赤線).2つのコスト関数の局所最適点の位置は大域最適点(オレンジ丸)を除いてまったく異なるので,結果として局所最適点は不安定化し,高い確率で正しい結晶構造予測が可能となる(文献17)より転載).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.物化学など幅広い分野で不可欠なツールとなっている.理論的には,粉末X線回折パターンは,物質中の電子密度のフーリエ変換の絶対値から計算される.この計算過程において,結晶方位や位相の情報が欠落してしまうため,実験で得られたX線回折パターンから原子構造を一意に再現することはできない.これまで,粉末X線回折13),14結果の解析には,直接空間法)が広く使われてきた.この手法では,原子位置を少しずつ動かし,実験結果に近いX線回折パターンを探すことで構造最適化を行う.パターンの「近さ」を表す代表的な指標として,R因子51