ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
- ページ
- 54/80
このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol62No1
小原真司,坂田修身,小野寺陽平,大林一平,志賀元紀,平田秋彦,平岡裕章短い(小さいあるいはいびつな形をした)リングの存在を意味する.このDeath軸に沿った縦長のガラスのプロファイルに注目すると,結晶相にも同じようなBirthの位置にプロファイルが観測され,α-クリストバライト,α-石英,コーサイトと高密度になるにつれて,Death値の小さい,すなわち寿命が短いリングへと変わっていることがわかる.一方で,図6bに示したリング分布を比較すると,シリカガラスに密度が近いα-クリストバライトは6員環しかもたないのに対し,ガラスは6員環を中心に広いリング分布をもつ.このような特徴をGuptaとCooperは「トポロジカルに無秩序」30)と定義し,ガラスの特徴であると結論付けている.しかしながら,図6からわかるように,α-石英,コーサイトと高密度になるにつれて結晶においてもリング分布に多様性があり,これらもトポロジカルに無秩序である.とくに,コーサイトにおいて大きなリングが存在していることは興味深い.これに対してSiのPDではコーサイトのリングが一番寿命が短いことを示しており,コーサイトのリングはねじれが大きいことを意味している.さらに重要な点は,ガラスがこれら3つの結晶相のプロファイルを包括するように縦長のプロファイルをもつことである.このような縦長のプロファイルが現れることがガラスになりやすいガラスの特徴と考えられ,このプロファイルはアモルファス(ガラス)ネットワーク形成の記述子と言える.さらに,シリカガラスにこれら3つの結晶相と同じDeath位置にプロファイルが広がっていることから,ガラスには密度がより高密度の結晶のホモロジーがある,つまり,α-クリストバライトと比較して,よりねじれた形のリングが存在していることが明らかとなり,これがガラスの無秩序性の象徴であると結論づけられた.aSiのPDOのPDDeath d k (A 2 )Death d k (A 2 )S N (Q)Birth b Birth b k (A 2 k (A 2 ))bCのPDClのPDDeath d k (A 2 )Death d k (A 2 )S N (Q)Birth b Birth b k (A 2 k (A 2 ))中性子のS(Q)Q 3Q 1Q 2Qr A-X中性子のS(Q)Q 1Q 3Q 2Qr A-X図7シリカガラス(a)と液体CCl4(b)のPDと中性子の構造因子S(Q).21)(PDs and neutron S(Q)for glassySiO2(a)andliquidCCl4(b).)5.2シリカガラスと液体CCl 4の回折データおよびPDの比較図4に示すようにシリカガラスと液体CCl 4にはFSDPが観測される.このFSDPとPDの比較を行った.図7にシリカガラスと液体CCl 4の各原子のPDを中性子のS(Q)と併せて示す.21)ここでは横軸は四面体の中心(A)と頂点(X)の距離でスケールされている(実質的には図4と同じ).両物質に共通する特徴は短範囲構造が正四面体であることであるが,前者は四面体が頂点共有ネットワークを形成しているのに対し,後者は四面体は孤立している.このような違いがあるにもかかわらず図7に示すとおり,両者は共にFSDP(Q1)を示す.21)図から液体CCl 4のFSDPは液体であるにもかかわらずシリカガラスのそれよりも鋭い.この原因はまだ議論の余地があるが,液体CCl 4では四面体がシリカガラスのようにネットワークにより拘束されていないことから面が揃いやすいのではないかと考えている.実際にFSDPの半値幅から相関長を計算すると液体CCl 4の相関長はシリカガラスより2倍ほど長い.21)PP(Q2)に注目してみるとシリカガラスのPPは一本のピークであるのに対して,液体CCl 4のPPは二本のピー31クとなっている.これについては三沢)やPusztaiら32),33)の議論にあるように液体CCl 4はほかの物質に比べると原子のパッキングは疎であるが,分子性液体の中ではClのパッキングの高い配向相関が存在しており,そのことに起因しているピークと考えられている.一方で,四面体の中心を占める原子のPDを図7左に,四面体の頂点に位置する原子のPDを図7中央に示す.S(Q)と対照的にシリカガラスと液体CCl 4のプロファイルには大きな差が見られた.シリカガラスはSiのPDとOのPDは類似しており,ネットワークの形成を表すDeath軸に沿った縦長のプロファイルが観測されているのに対し,液体CCl 4のCのPDにはそのようなプロファイルが観測されず,またBirthの値も大きい(これはC-Cの原子間距離が長いことを意味する).一方,ClのPDは縦長なプロファイルが不明瞭になっているがこれは前述のとおり液体CCl 4にはCCl 4分子の配向相関があることを意味している.5.3アモルファスSiと液体Siの回折データおよびPDの比較図8にアモルファスおよび液体Si(1,770K)の構造因子S(Q)とPDを示す.アモルファスSiは半導体で液体Siは金属であり,密度はそれぞれ2.30 g cm-3,2.57 g cm-3と液体のほうが高密度である.これはアモルファスが4配位であるのに対して,液体における配位数は5.7 21)とかなり大きいことに起因している.文献21)でも議論してきたが,この特徴は典型的なガラス形成物質であるシリカの液体とガラスでは短範囲構48日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)