ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
小原真司,坂田修身,小野寺陽平,大林一平,志賀元紀,平田秋彦,平岡裕章・各原子の種類ごとの固有の半径を初期半径として設定して,その半径から大きくしていく・ある特定の種類の原子にのみ注目し,その原子の配置のみを使うなどがある.4.非晶質物質の回折パターン図4にCu 50Zr 50ガラス, 21)アモルファスSi, 22)シリカガラス,23)24液体CCl)4の構造因子S(Q)を示す.横軸は原子サイズの差を規格化するために,散乱ベクトルQにS(Q)をフーリエ変換することにより得られた実空間関数の最近接距離dを乗じてある.液体CCl 4の中性子回折から得られたS(Q)およびシリカガラスの中性子回折から得られたS(Q)にはQdの小さい領域にQ1(First sharpdiffraction peak,FSDP),Q2(Principal peak,PP),Q 3の3つのピークが現れる25),26)ことが知られているが,アモルファスSiはQ1をもたず,Cu 50Zr 50ガラスはQ3しかもたないことがわかる.また,シリカガラスのQ 2はX線回折から得られるS(Q)には観測されないが,これはX線が原子番号の大きい(多くの電子をもつ)シリコン(Si)に敏感であるのに対して中性子は相対的に軽い原子である酸素(O)に特に敏感であることに起因することから,Q 2はO-O相関に関連したピークである.27)ほかの3つとは異なり,化学結合をもたないCu 50Zr 50ガラスは密なラS(Q)Q 1 Q 2 Q 3(FSDP) (PP)864200510QdCu 50 Zr 50ガラス(X線)アモルファスSi(X線)15SiO 2ガラス(中性子)CCl 4液体(X線)図4 Cu 50Zr 50ガラス, 21)アモルファスSi, 22)SiO 2ガラス, 23)CCl 4液体24)の構造因子S(Q).(Totalstructurefactors,S(Q), for glassy Cu 50Zr 50, amorphous Si, glassy SiO 2and liquid CCl 4.)2025ンダムパッキング構造をもち,配位数はほぼ12である.これに対し,アモルファスSiはSiSi 4四面体,シリカガラスはSiO 4四面体,液体CCl 4はCCl 4四面体が短範囲構造ユニットとなる.アモルファスSiとシリカガラスはネットワークを形成するが,液体CCl 4ではCCl 4四面体は孤立した分子として存在する.したがって,短範囲構造ユニットの中心原子から見た頂点原子の配位数と,頂点原子から見た中心原子の配位数の平均はそれぞれ,4,2.67(Siの周りのOの配位数は4,Oの周りのSiの配位数は2),1.6(Cの周りのClの配位数は4,Clの周りのCの配位数は1)となる.つまり,図4において,上にいくほど原子のパッキングは密であり,下にいくほど疎であると言える.非晶質物質の回折パターンの一番Qの低い位置に現れるピークをFSDPと命名し,FSDP=ガラスの中距離構造と安易に解釈している論文が見受けられるが,実際にはQの小さい領域に現れるピークがもつ意味は非晶質物質によって異なってくることから,dを乗じて議論する必要がある我々は,FSDPはシリカガラスや液体CCl 4のように短範囲ユニットにおける結合の手の数が異なる複数の原子から構成された多面体が疎に分布したときに多面体が作る秩序によって観測されるピークであると考えている.28)また,FSDPがガラスネットワークの象徴と報告している論文も数多く報告されているが,ネットワークを形成しても空隙がなければFSDPは消失することは,ZeidlerとSalmonらのシリカガラスの高圧中性子回折の結果から明らかであり,彼らのデータではそれと引き換えに酸素のパッキングが上昇することに伴うPPの成長が観測されている.27)したがって,FSDPがガラスネットワークの象徴という解釈には慎重になる必要がある.FSDPの起源についてはとくにシリカガラスにおいて多くの研究が報告されている.ガラス形成物質であるシリカガラスの構造モデルについては,1932年にZachariasenによって提案された.29)Zachariasenのガラス形成則の詳細については原著論文に詳しく書かれているが,シリカガラスにおいては,SiO 4四面体がOを頂点で共有してネットワークを形成している.頂点共有ネットワークという点においては結晶相であるα-クリストバライト,α-石英,コーサイトも同じである.ガラスの密度はα-クリストバライトとほぼ等しいが,四面体のつながり方に結晶のような規則性がないとガラスになる.しかしながら,規則性がないとは言え,シリカガラスはQ~1.5 A-1(Qd~2.4 A-1)にFSDPを示す(図4).このピークを解釈するために,RMCと古典MDのハイブリッドモデリングにより得られたX線と中性子のS(Q)を再現する構造モデルを図5 21)に示す.一方,FSDPの位置とその半値幅から,46日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)