ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

パーシステントホモロジーを用いた非晶質物質の回折パターンの理解と二体相関に潜んだトポロジーの抽出(a) (b) (c) (d) (e) (f)YXDeath(b 1 , d 1 ): for X(b 2 , d 2 ): for Yr=b 2 r=d 2 r=d 1Birth図1点集合のPD.(The persistence diagram for typical point sets.)造を活用してPHはデータの形を特徴付ける.PHはデータのマルチスケールな位相的構造をパーシステント図(persistence diagram,PD)という形で特徴付けることができる.ここでは図1aのような点集合データを考える.材料科学への適用では例えばMDシミュレーションで得られた原子配置などを利用する.このデータからあるスケールの位相的構造を得るためには同じ半径の円(三次元では球)を各点に貼り付ける.すると図1b~eのように点同士がつながりリング構造が現れる.ここで問題となるのがどのスケールを選ぶか(どの半径を使うか)である.PHの基本的なアイデアはどれか1つの半径を選ぶのではなく,半径を増大させていく過程を調べる,というものである.図1bからeまで変化する様子を調べ,リング構造の発生と消滅を調べるのである.この図においては図1bで発生したリングXが図1eで消え,図1cで発生したリングYが図1dで消える,と考えるのである.PHの数学的理論はこの発生と消滅のペアリングがどんな入力であってもうまくいく,つまりペアリングに任意性がない,ことを保証している.そしてこのリングの発生と消滅の半径の組の集まりをPDと呼ぶ.図1の例では{(b1,d1),(b 2,d2)}がPDである.これを二次元の散布図やヒストグラムで可視化したもの(図1f)もPDと呼ぶ.PDを活用するのに重要な概念として「穴の次元」がある.筒と球面という2つの形を考えてみる(図2).両方とも「穴のようなもの」があるがこれは性質が大きく異なる.筒はその中を通り抜けることができるが球面でそんなことは不可能である.筒の内側は外から覗くことができるが球面はできない.この違いは数学的にはある種の次元の違いとして定式化される.筒は一次元の穴をもち球面は二次元の穴をもっているのである.そのためPDも一次元のPD,二次元のPDが別々に定義されている.なお,本稿では一次元のPDのみを紹介する.PDによる解析結果を理解するためにはいくつか典型的な構造に関する出力を知っておくとよい.ここでは辺の長さがaの正三角形と正六角形についての一次元PDを紹介する(図3).これらのリング構造が現れるのは共に半径がa/2になったときである.一方このリングの内日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)図2筒と球面.(A cylinder and a sphere.)3Deathaa/ 3a/2 Birth図3正三角形と正六角形の一次元PD.(PDs1 for a regulartriangle and a regular hexagon.)側が潰れるのは正三角形ではa/√3 ? 0.577a,正六角形ではaである.するとそれぞれのPDは1点のPDで図のようになる.さらに正三角形のタイリングや正六角形のタイリング(ハニカム)などの場合はこれらの点が同じ位置に重なったPDとなる.PHによる解析のためのソフトウェアは各地の研究グループによってさまざまなものが開発されている.ここでは大林が中心となって開発しているHomCloud 20)を簡単に紹介する.HomCloudは可視化,逆解析,機械学習との組み合わせといった応用方面に注力して開発しており,実際にさまざまな材料科学データ解析に活用されている.特に逆解析はほかのソフトウェアにはない,HomCloudの特徴的機能である.逆解析はPDの各点に対応するリングや空隙を入力データ上に再構成する仕組みである.例えば図1fの(b 1,d1)からリングXを見つけ出すのが逆解析である.内部的にはPDの計算過程の情報を記録しておいて,その情報を逆にたどることで再構成を行う.実際のシミュレーションデータの結果を計算する場合には,複数種類の原子をうまくあつかうための工夫が必要となる.実用的によく使われる方法としては,45