ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

小原真司,坂田修身,小野寺陽平,大林一平,志賀元紀,平田秋彦,平岡裕章2.二体分布関数g(r)非晶質物質の構造を記述するのに最も適している関数である二体分布関数(Pair distribution function,g(r))は,7),8)ある1つの原子が原点にあるときに,距離rだけ離れたところにもう1つの原子を見出す確率を表す.以下,X線回折の場合を例に解説する.g(r)は,X線回折強度I(Q)を原子散乱因子f(Q)によって規格化したFaber-Ziman型9)の構造因子S(Q):I ( Q) ? f ( Q) 2( ) = + 1f ( Q) 2 Re ? f Q f*∑c ic? i ( ) j ( Q)jij f ( Q) 2S Q?=?S Q= ( ) ( )∑w Q S Qijijijij ( )のフーリエ変換として次式で与えられる.1 Qmaxg ( r) = 1+∫Q ?S ( Q) ? Qr dQQ ? 1?? sin2( )2πrρmin(1)(2)また,部分二体分布関数g ij(r)と部分構造因子S ij(Q)は以下の関係式で表される.gij1 Qmax( r) = 1+∫Q ?Sij( Q) ? Qr dQQrρ?1??sin2( )2πmin(3)Qは散乱ベクトル(Q=(4π/λ)sinθ,2θ:散乱角,λ:入射X線の波長),〈〉は原子1個当たりの平均値を意味し,ci,fi(Q)は原子iの濃度(原子分率),原子散乱因子である.また,w ij(Q)はi-j原子間相関に対する重み因子,ρは原子数密度(A-3)である.中性子回折の場合は,原子散乱因子はQ依存のない散乱長bで置き換わり,取り扱いはさらに容易になる.全相関関数(Total correlationfunction,T(r)),動径分布関数(Radialdistributionfunction,RDF(r))とg(r)の関係はT ( r) = 4πrρ? g ( r)(4)2RDF ( r) = 4πrρ? g ( r)(5)で表される.また,結晶のPair Distribution Function(PDF)解析でよく用いられる簡約二体分布関数(Reduced pairdistributionfunction,G(r))は,差分相関関数(Differentialcorrelation function,D(r))とも呼ばれるが,g(r)の簡約形として以下のように表される.( )G( r) = 4πrρ? g ( r) ?1(6)各関数の定義の詳細については文献10)を参照されたい.二体相関関数g(r)は非晶質物質の乱れた構造の記述子として適切であることから,これまで幅広く使われてきた.前述のようにg(r)はX線や中性子といった量子ビームを用いた回折実験より得ることができる.また,g(r)はQ空間における構造情報をそのまま実空間に投影できることから,結晶の散漫散乱やナノ粒子のようなブロードな回折ピークの解析を行えるため,近年ではさまざまな材料に適用されている.しかしながら,冒頭で述べたとおりg(r)はS(Q)をフーリエ変換することによりQ空間の多くの情報を失う(例えば結晶の空間群に関する情報)ことから,限られた一次元の実空間の構造情報から非晶質物質の三次元構造を一意的に導くことができない.この点が結晶に比べて非晶質の構造解析研究が大きく立ち後れている理由である.3.パーシステントホモロジー前述のように,量子ビーム回折実験から一意的に原子の位置を決定できず,また,格子定数や空間群といった構造記述子が存在せず,二体の相対的な位置でしか記述できないことが非晶質の構造解析の難しさであるが,近年の計算機の演算能力の向上および計算機実験技術の進歩や解析コードの整備により,非晶質物質の計算機実験環境は大きく進歩した.また,データ駆動型構造モデリング法である逆モンテカルロモデリング(Reverse Monte Carlo,RMC)11)と分子動力学(MolecularDynamics,MD)シミュレーションの組み合わせにより量子ビーム回折実験データを再現する構造モデルを構築することができるようになった.5)こういった背景の下我々は信頼性の高い非晶質構造モデルの二体相関に潜んだトポロジー解析を行ってきた.これまではリングやチェーン構造に注目した解析を行ってきたが,このとき,これらを構成する原子の結合を定義する必要がある.そこで,リングの大きさやチェーンの長さ以外に,そのねじれ方に注目した解析を行うため,位相的データ解析(Topological DataAnalysis,TDA)法の1つであるパーシステントホモロジー(persistent homology,PH)を導入した.本手法をシリカ(SiO 2)ガラスに適用して,その階層構造を抽出した成果は文献6)に,高圧のガラスに適用した成果は文献12)に,日本語での詳細は文献13),14)に記載されているが,その概要を以下に解説する.PHという,数学のトポロジーを使ったデータ解析(位相的データ解析)の一手法はデータの形を特徴付けるための有力なツールとして最近発展が著しい.15),16)理論からソフトウェア,応用まで数学,計算機科学,各応用分6),17),18野(材料科学)や生物学19)など)の専門家によってそれぞれの方面から開発,活用が進んでいる.トポロジーとは図形の連結性,穴,リング構造,空隙といった構造を数学的に取り扱うための枠組みで,こういった構44日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)