ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
日本結晶学会誌62,43-50(2020)?特集結晶学と情報学の融合パーシステントホモロジーを用いた非晶質物質の回折パターンの理解と二体相関に潜んだトポロジーの抽出物質・材料研究機構先端材料解析研究拠点小原真司,坂田修身京都大学複合原子力科学研究所小野寺陽平理化学研究所革新知能統合研究センター大林一平岐阜大学工学部志賀元紀早稲田大学理工学術院平田秋彦京都大学高等研究院平岡裕章Shinji KOHARA, Osami SAKATA, Yohei ONODERA, Ippei OBAYASHI, MotokiSHIGA, Akihiko HIRATA and Yasuaki HIRAOKA: Understanding Diffraction fromDisordered Materials and the Extraction of Topology Hidden in the Pairwise Correlationsby Persistent HomologyThe structure of disordered materials is still not well understood, due to the lack of structuralinformation from diffraction data. In this article, attempts are made to reveal the information onthe topology of crystalline and disordered materials by utilizing persistent homology analyses. Thepersistence diagram of silica(SiO 2)glass indicates that the shape of rings in the glass is similarnot only to those in the crystalline phase with comparable density(α-cristobalite), but also to ringspresent in crystalline phases with higher density(α-quartz and coesite). This behavior is a result ofdisorder, because the shape of rings in silica glass is buckled, which can be observed in high densitycrystalline phases. Furthermore, we have succeeded in revealing the differences, in terms of persistenthomology, between tetrahedral networks and tetrahedral molecular liquids, and the difference betweenliquid and amorphous states. A combination of diffraction data and persistent homology analyses is auseful tool for allowing us to uncover structural features hidden in the pairwise correlations.1.はじめに液体の研究で著名なEgelstaffは,液体構造に関する1総説)を次のような文章で始めている.「液体の研究というのは,失望させられる(=frustratingな)研究分野である.液体研究に関する基本的な考えは昔から知られているが,その実践的手段,すなわち高精度の実験を可能とする手段が存在しないからである.したがって,液体研究における進歩というものは,決して十分とは言えないような数多くの試行(実験)から得られるものであり,前進とは,たいていは古い実験手法の改良の結果なのである.液体の構造研究は,そういう(frustratingな)研究の典型である」.Egelstaffは,液体の「静的な構造」を実験的に調べ,記述することの困難さについて述べているのであるが,これは液体に限らずガラス・アモルファスなどのランダム系物質の構造研究全般について言えることである.2)ガラス・液体・アモルファスといった非晶質物質は結晶のような規則正しい構造周期性をもたないため,そ日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)の回折パターンはブロードとなり,その理解には困難を伴う.SPring-8やJ-PARCのような高強度の高エネルギー放射光・中性子が利用できる大型量子ビーム施設が建設されたことにより,高精度の回折データがハイスループット測定できるようになってきた3)が,Egelstaffが指摘する問題点の根底となる原因は,非晶質物質の構造を二体相関でしか実験的に記述できないことにある.近年では計算機シミュレーションや構造モデリング技術の発展により,信頼性の高い非晶質物質の三次元構造モデルを構築できるようになり,三次元構造と回折パターンの相関を考えるのに十分な質と量のデータが揃いつつある.4),5)本研究ではX線・中性子回折データに現れる特徴的なピークと三次元構造の相関を考察するために,現代数理学に基づいて考案された新しいトポロジ6カル解析法であるパーシステントホモロジー解析)を導入し,回折ピークの起源を考察するとともに,二体相関に潜んだ秩序をトポロジーに注目して抽出することを試みた.43