ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
計測インフォマティクスとデータベースの統合による客観・高速結晶構造解析図9Δτに対する学習済み人工知能の認識率.(Recognition rate of a learning artificial intelligence with respect toΔτ.)正解のτの範囲はそれぞれ(a)0~30°,(b)30~60°,(c)60~90°とした.破線は256階調による学習結果,実線は実数による学習結果を示す.補完の必要性を示唆している.3.2.2 X線回折パターンからの結晶構造回帰X線回折パターンの二次元検出器によるデータ取得は,2000年のCCDカメラの低雑音化,高集積化,高速化,広ダイナミックレンジ化などの技術革新を境に急速に普及し,15)時間軸と空間軸を含めた多次元分析へ可能性が広がった.電子線の場合と同様に,多次元化に伴い客観・高速解析に対する要望が増加している.2章で議論した一次元回折パターンの回帰問題は,二次元ではさらに複雑化し,もはや公知情報を使ったNNLSで解くことは不可能になる.そこでわれわれはより多くの情報を内包できる人工知能を使った客観・高速解析を検討している.一次ビームが異なるとはいえ,人工知能の構造や構築のフローは3.2.1の電子線回折パターンの場合とよく似ている.ここでは,議論をさらに一歩進めるために,分類ではなく回帰の問題から人工知能の能力評価と展望を述べる.本節における人工知能のタスクとして「二次元X線回折パターンから結晶の不完全性を予測する」を設定し,解析対象としてエンスタタイト(Enstatite)(001)を選び,結晶配向度を予測する.結晶配向度τを[001]方向を0°としたときの結晶方位のばらつき範囲と定義する.例えばτ=10°であれば[001]から10°の範囲内に方位が分散した結晶があることを意味する.したがって,τ=0°であれば単結晶,τ=90°であれば多結晶となる.今回のタスクでは,τを0~90°まで(単結晶から多結晶まで)のエンスタタイトのX線回折パターンをシミュレータで計算・可視化し,それを教師データとして学ばせた後,教師データ以外の任意のτのX線回折パターンを予測させる.構築したCNNは,二次元入力画像を350×350 pixelにしたものの,基本的には図5と同じ三段の畳み込み層をもち,全結合層でτの値を出力するように設定している.ここでは結果の定量評価のため,認識率をN total/N<Δτと定義した.ここでN totalは予測全数,正解に対して許容誤差Δτ以内の予測ができた数をN<Δτとした.図9破線はΔτに対する学習済み人工知能の認識率で日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)ある.ここで図9(a)~(c)は正解のτの範囲をそれぞれ0~30°,30~60°,60~90°とし,単結晶に近いものから多結晶に近いものまで三段階に分けて評価している.いずれの結果でも,Δτが十分大きければ,認識率100%になるが,単結晶に近いほど小さなΔτで100%の認識率に達しており,予測精度が高いことがわかる.この理由は,図9(a)~(c)の挿入図を見ればわかるとおり,単結晶に近いほど回折パターンがスポットになり,τによる違いが明確なためと考えられる.逆に,ほぼ同心円状の多結晶の回折パターンにおけるτの違いは見分けにくく,実際図9(b)と図9(c)の挿入図の違いを人の目で判断することはほぼできない.逆に考えると,こういった人の目で判別が難しくなった場合であっても,Δτ=0.5°程度の精度で,人工知能がτを100%予測できることは,少なくとも人以上の能力で客観的な回帰が可能であることを示している.3.3人工知能を使ったアプローチのまとめこれまで示したデータは,多次元の結晶構造解析に関係する分類や回帰の人工知能の能力が理解できる反面,・回折パターンにおける情報不足・分析対象の汎化が課題として残っている.1つ目の課題「情報不足」に関しては3.2.1の分類問題における同種の結晶系の判別,3.2.2回帰問題における多結晶の配向度の推測精度によって,見ることができた.情報量を増す観点では,今回使用したパターン画像はCCDカメラの利用を想定して256階調としたが,これをシミュレーションで得られる実数をそのまま使えば,図9の実線で示すとおり,特に小さなΔτで予測精度は向上する.予測精度の律速要素が,人工知能の能力ではなく情報不足に帰結された中で客観性を増すためには,ほかの測定結果との統合解析など,ブラッグの理論により集約されたデータ(回折スポット)からの情報抽出に限らず,多次元データからの情報抽出に向かうことは問題解決への方向付けの1つであろう.もう1つの課題「汎化」に関しては,人工知能の一般的41