ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
日本結晶学会誌62,35-42(2020)?特集結晶学と情報学の融合計測インフォマティクスとデータベースの統合による客観・高速結晶構造解析(国研)物質・材料研究機構統合型材料開発・情報基盤部門石井真史,上杉文彦㈱リガク小澤哲也Masashi ISHII, Fumihiko UESUGI and Tetsuya OZAWA: Objective and Rapid CrystalStructure Analysis by Integration of Measurement Informatics and DatabaseAlong with the advancement of measurement technologies, a large amount of experimentalcrystallographic data can be obtained easily, so that objective and rapid analysis suitable for batchprocess is strongly required. This article introduces recent research on objective and rapid analysisof crystal structure using X-rays or electron beams. For one-dimensional X-ray diffraction pattern,non-negative linear regression(NNLS)using diffraction patterns provided by public database hasachieved more objective and faster analysis than conventional manual works. With regard to twodimensionalelectron and X-ray diffraction, good objective and rapid analysis was realized for severaltypes of materials by using artificial intelligence(AI)based on convolutional neural network. On theother hand, the sparsity inherent in the diffraction pattern was found to cause a lack of information,and universal applicability of material property prediction using AI that depends on training data is stillopen to question. However, the fact that AI itself has the potential ability to solve complex images, abreakthrough technology for universal two-dimensional objective and rapid analysis might be foundin progressing research.1.はじめにX線は発見当初,可視光用の回折格子に当てても干渉縞を示さないことから,未知の光という意味でX線と名付けられたことは有名であるが,結晶からの回折が確認されたラウエの実験以来,波長が原子レベルの光として電磁波の一種と認知された.1)その後ブラッグにより結晶構造解析への道が引かれ,2)次第に複雑な結晶構造が明らかになっていった.こうして確立したX線回折は,現在さまざまな分野で合成物質の素性を知るために最初に行う実験の1つとなっている.その汎用性の高さをここで改めて述べる必要もなかろうが,他方,世の中に存在する一般的な材料は混合物が大多数であり,さらに各成分に結晶欠陥など不完全因子が入ることから,その解析は教科書どおりにいくわけではない.日々の解析の現場ではこれらの事実を反映して,以下のような切実な声がある.・複数の材料や相が混在する系では,一見しただけでは回折ピークがどの材料に帰属するかわからない・回折ピークが多くて,解析に長時間かかる・ほかの解析結果がより良い可能性を否定できない・解析が終わったら解釈がつかないピークが残ったが,処置がわからないさらに検出器の高性能化によりデータ量が多くなったこ日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)とは,これらの問題を深刻化している.コンビナトリアル3な手法)による多様な試料の生成→高速時分割測定→解析→大量データの数理的処理(マテリアルズ・インフォマティクス4))の流れは,途中のボトルネックである“解析”の客観性の保証と高速化への期待を強くしている.ここでは,この期待に対して既知の関連データを最大限活用する方法(以下,「客観・高速解析」という)を紹介するとともに,実例を2つ述べる.1つ目は,公知情報を使ったアプローチ,2つ目はシミュレーションによる網羅的なデータを使う人工知能によるアプローチである.ここで人工知能は,回折の特徴量(一般性や法則性)の線形代数的なパラメータ群への繰込みと考えれば,「知能」の名のとおり,回折パターンに関する知識の集まりと考えて良く,ユーザーの要求に対して,必要な情報を提供する意味でデータベースと等価と考えられる.したがって,ここで述べる2つのアプローチは,機械による知識基盤という形で将来統合されると考えている.2.公知情報を使ったアプローチ2.1従来の解析法まず従来の解析の例を示す.図1はNIST(NationalInstitute of Standard and Technology)のセメント標準試料(SRM 2686a)の回折パターンとその旧来の解析結果で35