ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
データ駆動型アプローチによる放射光全散乱計測までを別々に解析した結果を示した.それぞれの還元PDFG(r)は,補正前後の散乱強度からS(Q)を求め,Q[S(Q)-1]をフーリエ変換して得られたものである.補正前後の短距離PDF(図10aと図10c)を比較すると,信頼度因子R wは補正前の23%から補正後の16%へと減少していることがわかる.海外の放射光施設で同じ検出器モジュールを使って得られた同様な試料の結果(R w=26%)12)と比較して10%も低い.この差は,従来の一様分布を仮定したフラットフィールド法が十分に機能していないことを示唆している.一方,補正前後の長距離PDF(図10bと図10d)を比較すると,補正前の65%から補正後の38%へと飛躍的に向上していることがわかる.これらの結果は,感度ムラノイズがPDFに与える影響は距離に依存して大きくなることを示している.なぜなら,ポアソンノイズ同様,2)感度ムラノイズはG(r)に対して一律に影響を及ぼすため,シグナルが相対的に小さくなる長距離のほうがノイズの影響を受けやすいからである.以上のことからも,短距離秩序と長距離秩序の構造を同時に議論するには,感度ムラ補正が重要であることがわかる.6.考察6.1感度ムラの要因読者の中には,「そもそもなぜ感度ムラができるのか」という疑問をもたれた方が少なからずいるのではないかと推察する.ここでは,光子計数型に限定し筆者が理解している範囲でその疑問に答えたい.まず結論から言うと,感度ムラの要因はエネルギーしきい値のばらつきにある.光子計数型では,光子を計数するか否かの判断基準として,エネルギーしきい値を各画素に設定している.各画素に入射した光子のエネルギーがしきい値を超えればイチとして計数されるが,超えなければゼロである.通常,しきい値は入射光エネルギーの半分程度に設定される.なぜなら,一光子が隣接する画素と画素の間付近に入射し電荷分離が発生した場合,両方の画素で計数される現象(二重計数)を防ぐためである.つまり,適切なしきい値が各画素に設定されていれば,電荷分離が起きても隣接する一方の画素でのみ検出される.それでは,しきい値が画素ごとにばらつくとどうなるか.想定したしきい値より低い画素は電荷分離による二重計数の頻度が高くなり,一方,想定値より高い画素はゼロ計数の頻度が高くなる.結果として同じ強度の光が入射しても検出される値が画素ごとにばらつく.これが感度ムラの発生メカニズムである.このことは検出器の開発側にとっても頭が痛い問題であり,ハードウェア側で元の10分の1以下にばらつきを抑えているようだが現状では1%程度が限界のようである.8)この残りの1%が補正前のTFUの値と一致していることが,感度ムラの要因がエ日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)ネルギーしきい値のばらつきにあることを裏付けている.しきい値の設定には読み取りや暗電流によるノイズを除外するという重要な役割もあるが,そのばらつきが感度ムラという別のノイズを生む要因となっているという皮肉な結果とも言える.さらに厄介な問題は,しきい値のばらつきはしきい値そのものや温度などの変化に敏感に反応することにある.そのため,10 5以上のダイナミックレンジを常に保証するには,実験条件に合わせてその都度,補正せざるを得ないというのが実情である.MS法で補正時間の短縮を図ったのはこのためでもある.なお,光子計数型では数え落としも感度ムラの要因になりうるが,本研究では検出器の最大計数率(1画素当たり毎秒10 6 C)に対して十分低いレベル(1画素当たり毎秒10 2~10 3 C)であることを付記しておく.6.2補正とエネルギーしきい値のばらつき感度ムラの要因となっているエネルギーしきい値のばらつきに関連して,もう1つ重要な点を述べる.光子計数型検出器で試料からの蛍光X線を除外するために,しきい値を意図的に変更することが有効な手段であることは一般に知られている.その際に重要なことは,しきい値を蛍光X線のエネルギーより必要かつ十分に高く設定することである.感度ムラ補正を行ったとしても,しきい値自体がばらついていることには変わりがない.そのため,蛍光エネルギーとしきい値が近いと,蛍光X線を完全に除外できないだけでなく,蛍光X線の検出頻度が画素ごとで変わることで感度ムラが増大して見える.蛍光X線が入射した場合,積分型ではバックグラウンドが上昇するが,光子計数型ではそれに加えてデータのばらつきが大きくなる所以である.具体的には,該当する蛍光エネルギーより20%ほど高くしきい値を設定すると,蛍光X線の影響はほぼ無視できるようである.20%という値は,しきい値のばらつき8)と蛍光X線のエネルギー幅を加味すると妥当な値である.一方,しきい値が入射光エネルギーに接近すると,干渉性散乱の検出頻度が画素ごとで変わることによる感度ムラが発生し,さらに絶対感度も下がってしまう.この場合は,入射光エネルギー自体を変更することも含め検討を要する.いずれにせよ,フラットフィールド法もReLiEf法もソフトウェア側での補正法であるため,元々1%程度あるしきい値のばらつきは変わらないことに留意すべきである.6.3検出器のダイナミックレンジとはここで改めて,検出器のダイナミックレンジの定義を確認したい.ダイナミックレンジとは,その機器の扱える最大信号レベルと最小信号レベル(ノイズレベル)との比である.積分型の最小信号レベルは,読み取りや暗電流などによるノイズで決まる.一方,光子計数型では,エネルギーしきい値を適切に設定すればこの種のノイズ33