ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
データ駆動型アプローチによる放射光全散乱計測と,誤差全体の大きさは二乗和の形で表現されるため,ポアソンノイズを差し引いて,約1%の感度ムラノイズが約0.1%に減ったことになる.次に,Poisson Noise Ratio(PNR)1)という評価関数を用いて比較する.σyPNR = =σPN1∑( y(i) ? yi)N ?1y2(7)これは,ポアソンノイズに対する全体のノイズとの比で表される.ポアソンノイズ以外のノイズがなければ1となる.図7bはPNRの散乱強度依存性である.補正対象のデータとして図7aと同じものを用いている.未補正では散乱強度に対して指数関数的に増加し,10 7 Cでは30に迫る勢いである.一方,補正後は10 6 Cまでは2以下を維持し,10 7 Cに至っても5程度におさまると推測できる.10 6 Cあたりに着目すると,ポアソンノイズに対して10倍近くあったノイズが,補正によって2倍まで減ったということがPNRからもわかる.ここで,光子計数型検出器における感度ムラ補正の必要性に言及するため,放射光実験で長い間利用されてきた積分型検出器の1つであるイメージンプレート(IP)10)の結果と比較する.なお,IPの読み取りステップとカメラ半径は,MYTHENと同様の値に設定した.10 6 C台のTFUを比較すると,IPはMYTHENの補正前(約1%)と補正後(約0.2%)の中間付近(約0.5%)に位置している11ことがわかる.このIPの結果は,過去の報告)とも一致していることを付記しておく.積分型のIPは読み取りノイズなどが無視できないにもかかわらず,なぜ補正前のMYTHENよりTFUが小さいのだろうか.その一因は,データを読み取る際のスムージング効果にあると考えている.読み取りレーザーはIP上で発散することが知られており,11)隣接する走査線と走査線が重複し強度の平均化,つまりスムージングが行われた結果であると解釈できる.すなわちLine Spread Function(LSF)の問題に帰着されるが,実際,読み取りステップやカメラ半径が同等にもかかわらずIPで計測したブラッグ反射の半値全幅はMYTHENの倍程度であった.以上のことから,全散乱計測に必要な条件(Qレンジ,Qステップ,ダイナミックレンジ)を同時に満たすには,多素子・多画素からなる光子計数型検出器のLSFを生かす感度ムラ補正が不可欠であると言える.5.4散漫散乱に対する補正効果散漫散乱に対する補正効果を検討するために,非晶質SiO 2について散乱強度がそれぞれ10 3,10 4,10 5,10 6 C程度になるよう異なる時間で4つのデータを計測した.図8は,それぞれのデータについて補正する前と補正した後の結果である.Qが大きい領域を見やすくするため,縦軸はQ[S(Q)-1]としている.S(Q)は,散乱強度に各種の補正を施した後,それを規格化して得られる全散乱構造因子である.未補正のデータは,計数値を増やしてもQが大きい領域のばらつきが改善することはなかった.一方,補正後は,計数値の増大に伴って改善しているのがわかる.補正前後を比較すると,10 3 C相当ではデータのばらつきに大差はない.一方,計数値が大きくなるにつれて,補正前後の差が顕著になった.これは,計数値が小さいときには感度ムラノイズに対してポアソンノイズが優位であることを示している.逆に,計図7非晶質SiO 2のデータから見積もった(a)TFUと(b)PNRの平均検出強度依存性.((a)TFU and(b)PNR as a function of mean detection intensityestimated from non-crystalline SiO 2 data.)図8非晶質SiO 2のQ[S(Q)-1]の計数値依存性.(Countevolution of Q[S(Q)-1]of non-crystalline SiO 2.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)31