ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

データ駆動型アプローチによる放射光全散乱計測最後に,基準位置と1画素分シフトさせた位置で計測し,第1ステップの係数c MS1(i)と第2ステップのc MS2(i)で同一画素の強度を補正してから第3ステップの係数c MS3(i)を求める.cMS3( 1)y ( 1) cMS1( 1) cMS2( 1) y ( 2) cMS1( 2) cMS2( 2)2θ××+ = 3 1 2θ××?3 ? 121(5)y ( 1)×c ( 1)×c ( 1)2θ3 ? 1MS1MS2最終的な補正係数c MS(i)は,第1,第2,第3ステップで求めた補正係数を掛け合わせたものになる.c ( 1) = c ( 1)×c ( 1)×c ( 1)(6)MS MS1 MS2 MS3図4(a)SS法と(b)MS法による補正データの計測プロセス.(Measurement process of correction data bythe(a)SS and(b)MS methods.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.次に示す方法に対比させてシングルステップ推定法(SS法)1)と呼ぶことにする.4.3ベイズ統計に基づくマルチステップ推定法(MS法)前述のSS法はロバストな方法ではあるが,全画素数(64)に対して補正に使われた画素数(8)が少ないため,効率的な方法とは言いがたい.それに対して,補正効率の向上を目的としたマルチステップ推定法(MS法)1)を紹介する.SS法の場合と同様に,8画素からなる検出器を想定し,図4bを使って具体的に説明する.SS法と違い,検出器のシフト量はステップごとに異なる.最初に,基準位置とそこから4画素分シフトさせた位置でデータを同時間計測し,SS法と同じ要領で同一散乱角の画素データを使って各画素の補正係数c MS1(i)を求める.ここでは,画素1についてのみ式を示す.cMS1y2θ1 1( 1) + y2θ11 1( 5)1( )??=2 y2θ1 1( 1)日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)?(3)次に,基準位置と2画素分シフトさせた位置で計測し,同様に同一散乱角のデータを使って係数を求める.その際,下記のように第1ステップで求めた各画素の係数c MS1(i)で同一画素の強度を補正することがポイントである.cMS2( 1)y2θ2 1( 1)×cMS1( 1) + y2θ2 1( 3)×cMS1( 3)??=21y ( 1)×c ( 1)2θ2 ? 1MS1(4)ほかの7画素についても,同一散乱角のデータと事前に得られた補正係数を使って同様に求めることができる.MS法は,観測を繰り返しながら事前確率分布を更新し推定精度を向上させるというベイズ統計の考え方に基づいている.このようなマルチステップの推定を経ていることが名前の由来となっている.それに対して,SS法の推定はシングルステップであることがわかる.全計測回数を比較すると,SS法の8回に対してMS法は6回であり2回少なくなっている.それにもかかわらず,補正に使われた画素数はSS法の8個に対してMS法は24個と3倍になっていることから,時間短縮効果が期待できる.5.ReLiEf法のOHGIへの応用前述のSS法とMS法を実際にOHGIに適用した時の条件と結果について説明する.5.1補正条件OHGIは,1,280画素が一次元上に並んだ検出器モジュール15台で構成されている.前述のSS法をそのまま応用すると,1画素ずつシフトさせて1,280回の計測を行うことになるが,実際にはその必要はない.1%の感度ムラノイズを一桁小さくすることを目安とする場合,各画素の補正係数を求めるために最低必要な画素データ数は,計数実験についての平方根則によれば100である.実際には,SS法では10画素ずつシフトさせながら128回の計測を行った.それを基にMS法では,シフト量を640→320→160→80→40→20→10画素と段階的に減らしながら計14回の計測を行い,7ステップの推定を行った.これでは一見,モジュール1台分の補正データしか得られないように思うが,X線はあらゆる方向に散乱しているため15台分同時に補正データが得られる.要するに,計測回数はモジュールの台数に依存しない.これは,一様分布を必要としないReLiEf法の特長の1つでもある.入射光の波長は0.45 A?とし,入射光サイズ(縦約0.5 mm)に対して十分大きな直径3.5 mmの非晶質SiO 229