ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

加藤健一布から逸脱するのは,感度ムラノイズがポアソンノイズを上回った結果として説明できる.TFUという評価関数を通じて見えてきたのは,感度ムラの問題を解決しない限り,全散乱計測に必要なダイナミックレンジを確保できないということである.3.3仮説駆動型の感度ムラ補正法8感度ムラの問題)は,一次元光子計数型のMYTHENに限ったことではない.最も普及しているX線検出器の1つである二次元光子計数型のPILATUS(DECTRIS社製)でも同様な問題が指摘されている.9)これらの検出器には,フラットフィールド法という可視光にも使われている一般的な感度ムラ補正法であらかじめ求められた補正テーブルが波長ごとに用意されている.この方法では,何らかの形で一様分布とみなせるX線を検出器全体に照射し,検出強度と一様分布との比から各画素の補正係数を求める.最初はこの補正テーブルをそのまま採用し補正しようとしたが,TFUが大きくなることはあっても小さくなることはなかった.当初,補正テーブルが取得されたときの条件が実際と異なることが原因ではないかと考え,自ら同様な方法を用いて補正テーブルを作成してみたものの,期待した効果は得られなかった.完全に一様な分布が得られれば問題ないが,実際にはさまざまな要因によって一様分布からの偏りが生じる.それにもかかわらず一様分布を仮定することでしか補正できないことが,一定強度を超えるデータに対しては有効に機能しない原因であることがわかった.つまり,フラットフィールド法は一種の仮説駆動型の感度ムラ補正法であるがゆえに適用範囲は限定的と言える.4.データ駆動型の感度ムラ補正法(ReLiEf法)4.1補正原理筆者らは,仮説駆動型のフラットフィールド法に代わるものとして,データ駆動型のReLiEf(Response-to-Light1Effector)法)を考案した.これは,仮定をいっさい必要とせず,データだけを頼りに補正を行う方法である.図3を使って原理を説明する.ある物体(原理的には何でもよい)にX線を照射し,そこから散乱されたX線を検出器で一定時間,計測したとする(図3a).次に,検出器を図3cの矢印の方向にその半分だけシフトさせて同じ時間,計測したとする.この2つのデータには,同じ散乱角レンジ2θにおける散乱強度を異なる画素で計測したデータが含まれる(図3b,図3d).これらのデータを比較すると本来はポアソンノイズの範囲で一致するはずだが,感度ムラがあると一致しなくなる.その不一致度から推定される2θの散乱プロファイルを基に各画素の感度補正係数を求めるという一様分布不要のデータ駆動型アプローチである.ただし,このアプローチが成り立つには2つの前提条件がある.1つは比較する画素と画素で感度に相関がないこ図3データ駆動型感度ムラ補正法(ReLiEf法)の模式図.(Schematic view of a data-driven approach to X-rayresponse non-uniformity‘ReLiEf’.)1回目の計測の(a)配置と(b)データ,2回目の計測の(c)配置と(d)データ.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.と,もう1つは比較するデータ計測時の散乱強度が一定であることである.前者の条件に合うようにするには,検出器のシフト量を分割することで計測回数を増やし,多くの異なる画素間で比較することが有効である.後者については,入射光サイズに対して十分大きな非晶質散乱体を用いれば,入射光の位置変動に起因する散乱強度の変動を抑えることができる.一方,入射光の強度変動による散乱強度の変動については,その変動周期より十分短い周期で異なる検出器位置のデータを繰り返し計測し,後で同じ検出器位置のデータを足し合わせれば,その影響を小さくすることができる.このような工夫によって,検出強度を補正しなくても後者の条件を満たすことができる.次に,この原理に基づく2つの方法を説明する.4.2シングルステップ推定法(SS法)ここでは,8個の画素が一次元上に並んだ1台の検出器を補正することを想定し,図4aを使って具体的に説明する.これは検出器を1画素ずつシフトさせた計8回の計測からなっており,各計測時間は同一とする.すべての画素が同じ散乱角に含まれるのは,2θ列のみであることがわかる.この8画素分のデータを使って画素iの補正係数c SS(i)を求める式を下記に記す.∑8c ( y ii ) ( )i=1 2θ1SS =8 y ( i)2θ(2)y 2θ(i)は2θにおける画素iの検出強度である.第1項は8画素の検出強度の相加平均となっており,2θにおける推定散乱強度に相当する.この推定強度と画素iの検出強度の比として,補正係数c SS(i)が求まる.この方法を,28日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)