ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
データ駆動型アプローチによる放射光全散乱計測3.全散乱計測に求められる条件3.1全散乱計測システム(OHGI)図1に示したのは,筆者らがSPring-8の理研物質科学BL44B2に構築した全散乱計測システム1)(OHGI:Overlapped High-Grade Intelligencer)である.Si(厚み1 mm)をセンサーとする一次元光子計数型検出器モジュール(DECTRIS社製MYTHEN 7))を15台,試料から半径286.48 mmの位置にジグザグに重なり合うように並べている.1台当たり,長さ8 mmのストリップ(便宜的に本稿では以降,一次元検出器で使われる「ストリップ」と二次元の「画素」を区別せず,まとめて「画素」と呼ぶことにする)が1,280本,50μmステップで配列している.その結果,散乱角(2θ)レンジ0.5~153°,2θステップ0.01°の全散乱データが,1回の計測で得られるようになっている.波長0.4 Aの入射光を用いた場合,Qレンジ0.1~31 A-1,Qステップ10-3 A-1に相当する.典型的なPDF BL 6)と比較すると,Qステップ(10-2 A-1)は一桁小さいがQレンジ上限(約40 A-1)は及ばない.ただ,30 A-1以降では干渉性散乱に対して非干渉性散乱(コンプトン散乱)が強度的に優位に立ち実際に解析に使われる上限は20~30 A-1であることが多いため,大きな問題にはならない.一方,典型的な粉末回折BL 3)では,2θレンジ~80°,2θステップ0.01°となっており,OHGIはブラッグ反射の計測条件も満たしていると言える.つまり,用いる計測システムと波長の組み合わせを最適化すれば,全散乱計測に必要とされるQレンジとQステップを同時に満たすことは可能である.3.2ダイナミックレンジを制限する感度ムラノイズ一方,散漫散乱よりも強弱の差が大きいブラッグ回折の計測に必要な検出器のダイナミックレンジは,10 5が目安とされる.8)そこで,OHGIのダイナミックレンジを評価するために,検出強度のばらつきを平均検出強度の関数として評価した(図2).評価関数として,下記で表されるTFU(Total Fractional Uncertainty)1)を用いた.σyTFU(%) =×100y1=N ?1∑( y(i) ? y )iy2×100(1)y(i)は画素iにおける検出強度,yとσyはN個の画素の検出強度の相加平均と標本標準偏差である.要するにTFUは,強度のばらつきを平均強度に対する百分率で表した相対誤差である.画素数Nは十分大きく,かつその範囲において平均強度からの偏りが十分小さいことが評価の前提となるため,非晶質SiO 2の平坦と見なせる500画素分のデータを評価に用いた.ポアソン分布に従えばσyはyの平方根となることが期待されるため,10 6カウント(C)では0.1%になるべきである.しかし,実際には図2に示すとおり10倍の1%程度であった.1%は10 4 CにおけるポアソンノイズのTFUに相当するため,ダイナミックレンジは10 4であることを示している.OHGIで採用した検出器モジュールの仕様上のダイナミックレンジは24 bits,つまり約10 7となっている.また,光子計数型では読み取りノイズや暗電流は原理的に除外されることから,何らかの別のノイズが混入している可能性が高いと考えた.検討を重ねた結果,画素ごとにX線に対する感度が異なること,すなわち感度不均一(ムラ)がノイズの原因となっていることがわかった.この感度差は特定の画素に着目すると系統誤差であるが,画素間を見渡すと不規則に分布しているため偶然誤差として映る.つまり,一定強度を超えると観測データのTFUがポアソン分図1SPring-8のBL44B2に設置されている全散乱計測システムOHGI.(Total-scattering measurement systemOHGI installed at BL44B2 of SPring-8.)(a)配置図,(b)配置写真,(c)全体写真.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図2非晶質SiO 2のデータから見積もったTFUの平均検出強度依存性.(TFU as a function of mean detectionintensity estimated from non-crystalline SiO 2 data.)日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)27