ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

松下智裕ギーを特定の価数に起因する吸収ピークに合わせて,ホログラムを計測するのである.この場合は単一エネルギーのホログラムしか原理的に得られないため,像再生にはここで紹介したSPEA-L1が有効である.蛍光X線の場合は単に式(1)中の散乱波の波動関数を,光の波動関数に取り換えるだけで良い.例えばBi 2Te 3中のMnドーパントの構造解析にはSPEA-L1が利用された.19)また,蛍光X線ホログラフィーのノーマルモード(特性X線の放出角度分布を測定)も二次元X線ディテクターで測定できるようになってきた.こちらも原理的には単一波長のホログラムしか得られないため,SPEA-L1が有効である.中性子ホログラフィーはJ-PARCの新しい測定技術として,精力的に研究が進められている.15)軽元素が測定できるのが大きな特徴である反面,価数分離はできない.パルス中性子源を利用することで,多重エネルギーのホログラムが得られる.中性子ホログラムのパターンも三角関数で表せるため,フーリエ変換によって原子像を得ることが可能である.また,別の方法として逆光電子ホログラフィーも提案されている.39)光電子ホログラフィーのインバースモードに相当し,サンプルに入射する電子線の方位を走査しながら特性X線を測定すると,s波の光電子ホログラムと等しいものが得られる.電子銃を使うため研究室レベルで利用できる.以上のような原子分解能ホログラフィーは多くの新手法が日本の研究者によって見出され,そこから得られるドーパントの原子配列の情報は,従来の回折の情報とは異なる方向性をもつ.ただし,現時点の理論で得られた原子の立体像から原子配列を読み解くのは,さまざまな知識を要求する.現在のホログラフィーの技術発展はちょうどX線回折の技術発展をなぞっているようである.現在のX線結晶構造解析では得られた電子密度マップから,さまざまなソフトウェアがサポートして,原子配列や原子振動の大きさなどの物理値へと変換してくれる.ここで示したホログラフィーの解析技術も目指す方向は同じである.原子像から原子配列に解いていく知識を体系化し,これをプログラム化していく必要がある.今後もハード,ソフトの面での計算機技術の発展とともに,新しい解析理論を研究していくことが必要とされている.謝辞この研究を進めるにあたって,多くの研究者に支えられた.SPring-8 BL25SUの最新の光電子アナライザはJASRIの室隆桂之主幹研究員の尽力により開発されたものである.光電子ホログラフィーの最先端の実験では岡山大学の横谷尚睦教授,東京工業大学の筒井一生教授とともに研究させていただいた.この研究の源流を辿ると,旧原研の吉越章隆研究員,安居院あかね研究員とともに,この研究の最初のデータをとらせていただいた.さらに長年の理論開発には奈良先端大の松井文彦准教授(現分子研主任研究員),大門寛教授(現豊田理化学研究所)とともに測定したDIANAによる実験データによるところが大きい.また,ビームラインBL25SUにご尽力されたJASRIの木下豊彦主席研究員,中村哲也主席研究員にも支えられた.蛍光X線ホログラフィーでは名工大の林好一教授,広島市立大学の八方直久准教授,熊本大学の細川伸也教授らとおおいに議論してともに研究を進めさせていただいた.ここで改めて深く感謝の意を表します.文献1)A. Szoke: AIP Conf. Proc. No.147, 361(1986).2)J. J. Barton: Phys. Rev. Lett. 61, 1356(1988).3)J. J. Barton: Phys. Rev. Lett. 67, 3106(1991).4)G. R. Harp, D. K. Saldin and B. P. Tonner: Phys. Rev. B 42, 9199(1990).5)S. Y. Tong, H. Li and H. Huang: Phys. Rev. Lett. 67, 3102(1991).6)D. K. Saldin, G. R. Harp, B. L. Chen and B. P. Tonner: Phys. Rev. B44, 2480(1991).7)L. J. Terminello, J. J. Barton and D. A. Lapiano-Smith: Phys. Rev.Lett. 70, 599(1993).8)D. K. Saldin, G. R. Harp and X. Chen: Phys. Rev. B 48, 8234(1993).9)H. Wu, G. J. Lapeyre, H. Huang and S. Y. Tong: Phys. Rev. Lett. 71,251(1993).10)H. Wu and G. J. Lapeyre: Phys. Rev. B 51, 14549(1995).11)J. Wider, F. Baumberger, M. Sambi, R. Gotter, A. Verdini, F. Bruno,D. Cvetko, A. Morgante, T. Greber and J. Osterwalder: Phys. Rev.Lett. 86, 2337(2001).12)S. Omori, Y. Nihei, E. Rotenberg, J. D. Denlinger, S. Marchesini, S.D. Kevan, B. P. Tonner, M. A. VanHove and C. S. Fadley: Phys. Rev.Lett. 88, 055504(2002).13)M. Tegze and G. Faigel: Europhys. Lett. 16, 41(1991).14)L. Cser, G. Krexner and Gy. Torok: Europhys. Lett. 54, 747(2001).15)K. Hayashi, K. Ohoyama, N. Happo, T. Matsushita, S. Hosokawa,M. Harada, Y. Inamura, H. Nitani, T. Shishido and K. Yubuta: Sci.Adv. 3, e1700294(2017).16)P. M. Voyles, D. A. Muller, J. L. Grazul, P. H. Citrin and H. -J. L.Gossmann: Nature 416, 826(2002).17)Y. Oshima, Y. Hashimoto, Y. Tanishiro, K. Takayanagi, H. Sawada,T. Kaneyama, Y. Kondo, N. Hashikawa and K. Asayama: Phys. Rev.B 81, 035317(2010).18)S. Hosokawa, N. Happo, T. Ozaki, H. Ikemoto, T. Shishido and K.Hayashi: Phys. Rev. B 87, 094104(2013).19)S. Hosokawa, J. R. Stellhorn, T. Matsushita, N. Happo, K. Kimura,K. Hayashi, Y. Ebisu, T. Ozaki, H. Ikemoto, H. Setoyama, T.Okajima, Y. Yoda, H. Ishii, Y. -F. Liao, M. Kitaura and M. Sasaki:Phys. Rev. B 96, 214207(2017).20)T. Nishioka, Y. Yamamoto, K. Kimura, K. Hagihara, H. Izuno, N.Happo, S. Hosokawa, E. Abe, M. Suzuki, T. Matsushita and K.Hayashi: Materialia 3, 256(2018).21)K. Kimura, K. Hayashi, L. V. Yashina, N. Happo, T. Nishioka, Y.24日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)