ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

L1正則化を用いた光電子ホログラフィーによるドーパントの原子配列解析図7β準位の光電子ホログラフィー.(Photoelectronholography ofβsite.)(a)β準位の光電子ホログラムの測定結果とシミュレーション.(b)推定されたPVSVC構造.PV構造は4つの等価な方位があり,表面に垂直なPV V構造の占有率が高い.た.これをさまざまな方向で測定し,得られたそれぞれのスペクトルに対してピークフィッティングを行って,ピークαとβの角度分布,すなわちホログラムを得た.ピークαの光電子ホログラムを図6bに示す.上記の理論を用いて原子配列の再構成を行った.これを図6dに示す.ダイヤモンド構造が綺麗に再生されていることから,ピークαのリン原子は置換サイトにあることがわかる.ところで,ダイヤモンドの単位胞には,2つの原子サイトAとBがある(図6c).結合の腕の方向は異なるが,化学的には等価なサイトであるため,ホログラムから再生した原子像はこの2つのサイトが同時に見えるはずである.図6d中の大きな丸と小さな丸はそれぞれAサイトとBサイトを原点にした場合の期待される原子位置である.面白いことに,Bサイトを原点とする原子像は欠落し,Aサイトを原点とした原子像のみである.これは,リン原子はランダムに置換しているのではなく,Aサイトに選択的に置換されていることを示している.このホログラムからAサイトとBサイトの比率を計算すると,A:B=82:18であった.これを基にシミュレーションを日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)行った結果を図6bに示した.良い一致を示している.この非対称な占有は一見,不思議である.化学的に等価なサイトにもかかわらず,占有率が偏るのである.考察の結果,これはCVD成長プロセスに起因することがわかった.[111]面で成長すると,Aサイトが形成される状態と,Bサイトが形成される状態が,表面に交互に現れる.Aサイト形成時の表面は3つの結合ボンドに吸着する状態であり,Bサイト形成時は1つのボンドのみである.リン原子は3つのボンドと結合する時が安定であるために選択的にAサイトに取り込まれると推測できる.このように,光電子ホログラフィーは化学状態が同じ場合でも,原子配列を区別できる強力な方法であり,これはほかの構造決定法では不可能である.次にβサイトのホログラムを図7aに示す.解析の結果,原子配列は図7bに示すようなPV split vacancy complex(PVSVC)サイトで38)あることがわかった.これはXAFSで推定された構造とは異なっており,構造を直視できる方法の重要性を示している.また,βサイトも図7bに示すように,4つの方位が存在する.表面に垂直なPV V構造とほぼ水平な3つの方位のPV H構造である.この構造がランダムに形成されるのであれば,PV VとPV H1,2,3の比率は50:50:50:50だが,実験から得られた値は69:31:31:31であった.この情報を基にシミュレーションした結果を図7aに示している.実験結果をよく再現した.つまり,表面に垂直なPV H構造が優先的に形成されるのである.この形成原因もまたCVDの結晶成長プロセスに起因すると考えられる.主にAサイトに吸着するリン原子の上に炭素原子は吸着しにくい状態にあり,吸着しながった場合にPV V構造が形成されると推測している.これらの知見は今後の結晶成長などに有益な情報となるだろう.6.最後にここでほかの原子分解能ホログラフィーについて紹介したい.まず,蛍光X線ホログラフィーはSPring-8などを利用して精力的に研究が進められている.18-21)この測定法は価数分離には少し困難を伴うが,大気中で測定可能であり,絶縁体も対象にできる強力な方法である.図1の角度分布を測定する方法はノーマルモードと呼ばれるが,この時間反転を利用したインバースモードと呼ばれる測定法が蛍光X線ホログラフィーで主に使われる.放射光と組み合わせて,波長を変えながら複数のホログラムを測定する.得られた多重エネルギーホログラムはデータ量が多くなるため原子像の精度が高い.蛍光X線ホログラフィーの場合の干渉縞は三角関数に近い関数で表せるため,多重エネルギーホログラムからフーリエ変換ベースの計算法で原子像が得られる.ところで,蛍光X線でもX線吸収と組み合わせて,価数分離を試みる研究も進められている.X線のエネル23