ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
松下智裕までは虚像を生じるため,測定データに対して変動を取り除くさまざまなデータ処理を施す.ただし,処理次第ではホログラム振動も除去してしまう場合があり,この場合は像が欠損する.ホログラムの性質を理解しながら,データ処理をする必要がある.ところで,図2cのタイプの装置は単純な構造のため,装置による感度ムラも少なくデータ処理は単純であり,扱いやすい.虚像が生じる場合には拘束条件を追加して抑制する.まず,原子分散関数g(a)に対して結晶の点群の操作を施す.N個の点群操作がある場合,それぞれの点群操作をΓnとすると,下記のようにそれぞれの操作後の原子像を平均化する.1g ( a) =∑ΓnNg an( )(17)光電子ホログラフィーの場合は表面も含んだ点群操作を施せば良い.また,使用条件は限られるが,さらに強力な拘束条件として,結晶の並進操作も施す方法がある.30)これは虚像を大幅に減少させる.しかしながら,ドーパントの存在する位置やドーパント周囲の歪みなどを考慮すると使えない場合もあり,結晶構造やドーパントの構造をよく理解しながら適用する必要がある.そして手順2に戻り,計算が収束するまで繰り返す.ところで,1600億要素の行列をどのように計算するのか.それは実験条件を工夫して,図3a~cのようなドーパントと散乱原子を結んだ線を軸とする円筒対称のパターンになるような実験条件にすることで,行列要素の次元を下げている.例えば,オージェ電子の場合は図3cのように,円筒対称であるため,問題なく行列要素の次元を下げられる.光電子の場合は少し工夫をする.図2a測定装置の場合,励起光を無偏光か縦の直線偏光にする.光電子の測定方位を光の入射方向となす角を90°にすると,測定される光電子の波動関数はpz,d z2(分析器の測定方向をz軸とした)などのz軸の円筒対称性をもつ波動関数のみ干渉縞に寄与するため,円筒対称性が保証される.図2b,cの測定装置の場合は測定されたホログラムに結晶の点対称操作を施すことで,偏光起因の非対称の影響を軽減する.5.ダイヤモンド中のリンのドーパントの構造上記の理論を用いて,ダイヤモンド中のリン原子のドーパント構造を解いた例を紹介する.24)実験はSPring-8 BL25SUに設置された図2aの装置で行った.サンプルは[111]面のダイヤモンドにドーピングしながらCVD成長させたものである.詳細については論文を参照されたい.得られたリンのドーパントのスペクトルを図6aに示す.ピークαとβの2つの化学状態が観測され図6光電子ホログラフィーによるダイヤモンド中のリンドーパントの原子配列測定.(Measurement ofatomicarrangementofphosphorusdopantindiamondbyphotoelectronholography.)(a)ダイヤモンド中のリン(P)ドーバントのスペクトル.(b)α準位の光電子ホログラム.表面は[111]面なのでホログラムの中心が[111]方向となる.(c)2つの置換サイトの模式図.(d)α構造のホログラムの立体原子像の断面.大きい円Aサイトから見た期待される原子位置.小さい円はBサイトから見た原子位置.22日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)