ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

ページ
27/80

このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている27ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol62No1

L1正則化を用いた光電子ホログラフィーによるドーパントの原子配列解析δg dkの作り方は結晶のユニットセルとはまったく無関係であり,例えば0.1 Aステップで±10 Aの空間を表すボクセ( ai) =∫?χ( k) t ( k,ai)(11)?g ( ai) = ?∂E ai∂g ( ai) = ( ) ?を回して測定するタイプはビームの照射位置が回転によって変化することで,感度変動を生じやすい.そのまルなどを計算に使う.方程式の数はホログラムを計測したk点の数になる.通常は,1枚のホログラムを±1°の分解能で測定すると,半球面で約2万点の測定点になる.したがって,方程式の数は約2万である.一方で±10 Aの空間を0.1 Aのボクセルでg(a)を表すと,未知の数は200 3=800万個となり,方程式数2万,未知数800万の連立方程式となる.連立方程式の行列要素は1600億個あり,しかも疎な行列ではない.加えて,未知数が方程式の数よりも少ないため,このままでは解けない.そこで,機械学習で利用されているL1正則化を用い式(10)にはスパースネスを表すパラメータλが現れる.λによって正値に修正をするボクセルを減らし,負の値へと修正するボクセルを増やす意味がある.最終的に原子分散関数は負値にならないので,負になったボクセルはゼロ値に変更する.これがλによるスパースネスのコントロールの仕組みである.このλの決定法が重要になる.手順4:ある程度自動的にλをコントロールするために,パラメータβ(0<β<1)を導入して,勾配の最大値を用いて下記のように調整する.る.L1正則化は疎な解を探索する方法であり,ニューラルネットワークでは過学習を防ぐために用いられていλ=βmax (δg ( ai ))(12)る.主要なパラメーター以外をゼロ値にしてしまう方法である.期待される原子分散関数g(a)の特徴はδ関数の和で表されることからもわかるように,原子の存在する位置のボクセルのみ有限な値が入り,それ以外は0とな手順5:単にこの方法を用いてもβの値は大きくできない.式(10)では負の補正が強すぎるため,後述の最急降下法のパラメータが決定できなくなる.そこで式(10)を変更し,るべきである.L1正則化は原子配列を表す原子分散関?δg ( ai) ?λ, (δg ( ai) >λ)数の性質と一致する.??g ( ai) = ?0,( ?λ?δg ( ai) ?λ)ボクセルのインデックスをiとし,測定点へのインデッ?δgクスをjとする.測定したホログラムを?χと定義すると,( ai) +λ,δg ( ai) <λ?? ( )(13)測定ホログラムと原子分散関数から計算されるホログラムの二乗誤差は負の方向の補正を弱くする.加えて,値がゼロのボクセルは負の補正を行うと負値になる.しかし後の補正でゼ2ロ値に戻すため,この負の補正は除くと良い.よって式E1=∑?χj ( kj )(7)(13)の補正後,さらに下記の補正を加える.?χ( kj ) =χ( kj ) ?χ( kj )(8)??0,( ?g( ai) < 0 and g ( ai) = 0)?g( ai) = ??gで与えられる.L1正則化の評価関数は,その定義から下( ai) ( otherwise)?? ,(14)記となる.手順7:反復回数を(n)で表すと(n+1)回目の原子像は,( n+1) ( n)1g ( ai) =α1g ( ai) +α2? g ( ai)(15)E = E +∑gi( i )2 1λa(9)で与えられる.式(15)のα1とα2のパラメーターの決定λは解のスパースネスをコントールするパラメータである.このEの値を極小化することで解を得る.極小化には勾配法を用いて,下記の手順に従って反復計算によりは最急降下法を用いると良い.式(5)に式(15)を代入して,式(7)を利用した下記の式を解くことで決定できる.求める.( n+1) ( n+1)∂E手順1:初期値として原子分散関数g(ai)の1∂E1値をゼロに= 0, = 0∂α1∂α2する.(16)手順2:ホログラムχ(k)を式(5)で求める.手順3:式(8)でホログラムの誤差を求め,誤差値から原子分散関数に関する勾配を求める.勾配を下る方向に原子分散関数を修正すれば,評価関数Eの値は小さくなる.勾配を下るので,原子像を修正する関数Δg(a)は下記で与えられる.手順8:式(15)を実行後,負値のボクセル値をゼロ値にする.手順9:この計算法は誤差に敏感で,計算誤差などにより,結晶学的に等価な位置の原子像の強度が異なってしまう場合がある.また,虚像や像の欠落が発生することもある.虚像や像の欠落の発生機構の1つとして,ホログラム測定時の検出感度のムラがある.図2aの試料日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)21