ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
松下智裕まざまなタイプの球面波が放出され,s波ではない場合がほとんどである.オージェ電子の場合はほぼ等方的に電子が放出されるが,s波ではない.例えば1s内殻コアホールが存在している状態から,2pの電子が遷移してコアホールを埋め,このエネルギーがほかの2p電子に伝達されて放出される場合(KL 2,3L 2,3),主にd波が放出される.29)d波が励起された場合の結果を図3cに示す.詳細な比較を図4に示した.s波の場合に比べて,d波は波動関数にノードがある.ちょうど,d z2の波動関数を思い浮+dz 2Node-Node- 1 - 0.5 0 0.5 1cosθ図4 cos関数とs波が励起された場合のホログラム関数および,d波が励起された場合のホログラム関数の比較.(Comparison of hologram functions of s-waveand d-wave and cos function.)横軸は単位球に投影したホログラムのz値(cosθ)とした.ホログラムの振動はcos関数と比べて前方散乱領域で周波数がシフトする.d波のホログラムに現れるノードはd z2波動関数のノードに対応する点を模式的に示した.点線で示すように,直接波が負の部分はs波の場合と比べて強度が反転する.+ForwardFocusing peakd-waves-wavecosかべてもらえば良い.d z2は2つの角度で波動関数は0の値となる.このため干渉縞も図に示すように2つの角度でノードが発生する.さらに点線で比較した部分は,d z2波の符号が反転する領域であり,s波の場合と比較するとパターンの強弱が反転する.さらに厄介なのは光電子の場合は光の偏光も関係してくる.例えばp電子状態を無偏光で励起した例を図3dに示す.光の入ってくる方向の光電子強度は弱くなる.無偏光以外ではパターンの対称性がさらに崩れる.このように光電子ホログラムは単純な三角関数では近似できないため,フーリー変換では原子像を得ることができなかったのである.そこで,1つの散乱原子が形成するホログラムを基底関数とし,それを用いてL1正則化を利用したフィッティングによって原子配列を得る方法を考案した(Scattering PatternExtraction Algorithm using L1 regularization(SPEA-L1).35,36)フィッティングによる原子配列を推定する方法は,大きく2つのアプローチがある.1つは原子の位置a hと散乱強度をフィッティングパラメーターとして,式(3)をそのまま解く方法である.これは非線形方程式となり,原子が100個あると,400次元の非線形問題を解く必要がある.これには良い初期値を必要とし,単純に解けない.そこで,方程式を線形にする.式(3)を変形し,下記の積分方程式にする.χ( k) =∫t ( k,a) g ( a)d a(5)ここで,原子の分散を表す関数g(a)を導入した.例えば,( )a ? ag ( a) =∑δhah(6)と置けば,式(5)と式(3)の意味は同じになる.したがって,解くべき問題はホログラムχ(k)を与えたときに原子分散関数g(a)を求める線形方程式へと変わった.式(5)の意味を図5に示す.原子分散関数を図のようにボクセル(三次元メッシュ)で表現し,ホログラムも図のように離散化すると連立方程式となる.三次元メッシュ図5原子分解能ホログラム関数を表すピクセルと原子分散関数を表すボクセルの関係式(式(5)).(Relation of pixelrepresenting atomic resolution hologram and voxel representing atomic dispersion.)散乱パターン関数はドーパントから運動エネルギーがEk=570 eVをもつd波の電子が放出された場合をシミュレートした.20日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)