ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

L1正則化を用いた光電子ホログラフィーによるドーパントの原子配列解析Forward focusing peakInterference rings(a)(b) (c) (d)Scatterer atomDopant atom(e)Nodeunpolarized light= + + + + +図3炭素の散乱原子1個が形成するホログラムのHologramパターpatternsン.(causedbyacarbonscattereratom.)運動エネルギー570 eVの場合を示した.(a)ドーパントから放出された電子をs波とし,原子間距離をa=1.54 A(最近接原子の場合)とした.(b)(a)と同条件で原子間距離がa=3.56 A(ユニットセル長)の場合.(c)(b)と同じ原子間距離でKL2,3L2,3オージェ電子の場合(d波).ノードが現れ,点線で結んだ領域はs波の場合と比べて強弱が反転する.(d)無偏光で始状態がp電子を励起した場合の光電子のホログラム(原子間距離は(b)と同じ).(e)測定されるホログラムはそれぞれの原子が作るパターンの総和.点線は対応する前方収束ピーク.座標の原点は光電子を放出したドーパント原子とする.内殻準位は通常は縮退しており,これによって複数の異なる波動関数が励起される.Lはこれを区別するために導入した.ψL(k,a h)は座標a hに位置する原子で散乱された光電子の球面波の波動関数である.hはドーパントの周囲の複数の原子を区別するインデックスを表す.ホログラムの定義は,観測強度から参照波の強度を差し引いたもので定義される.χ( k) = I ( k) ? I 0( k)(2)したがって,( )k aχ( k) ?∑t ,ha?tL L Lh( ) = ( ) ( )日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)?? + ( )2L(3)k, a a∑2Re ??? kψk, aψk,a(4)の形を得る.式(4)は1つの散乱原子が作り出すホログラムのパターンの関数(散乱パターン関数)である.式(3)は測定されるホログラムは1つの原子が作り出すホログラムの単純和であることを示している.散乱波の波動関数ψL(k,a)の計算は電子の場合は厄介である.散乱に寄与するポテンシャルは原子核による引力ポテンシャルとそれを遮蔽する電子雲による静電ポテンシャルと交換相互作用で形成される.価電子の密度は非球対称成分も含むが,原子に付随する多くの内殻電子は球対称に分布するため,これらを総和すると散乱ポテンシャルの主成分は球対称となる.このポテンシャルはちょうど凸レンズのような作用をするため,散乱波は第1ボルン近似では得られず,部分波展開法を用いる必要がある.計算で得られた,1つの散乱原子が形成するホログラムのパターンを図3に示す.まず,説明を簡単にするため,s波の球面波がドーパントから放出された場合を図3aとbに示す.球対称の散乱ポテンシャルのため,原点と散乱原子を結んだ軸を中心に,円筒対称性をもつパターンが形成される.原子が凸レンズの役割をするため,前方収束ピーク(Forward focusing peak)が現れる.このピークを中心に同心円状の干渉リング(Interferencerings)が形成される.図3bのようにドーパントと散乱原子の距離が離れると,リングの干渉縞は細かくなる.そして,図3eに示すように,この単純な性質をもつパターンの総和が測定されるホログラムとなる.ホログラムのパターンのおおまかな模様は近くの原子が作り出し,細かな模様は遠くの原子が作り出すことがわかる.この足し合わされた状態から,それぞれのホログラムの成分へと分離できれば,原子配列が得られたことになる.これはちょうど,音波に似ている.音はさまざまな周波数の合成で波が形成されている.これを,それぞれの周波数に分離するには,フーリエ変換で達成することができる.光電子ホログラムに対してフーリエ変換を用いてこのパターンをそれぞれの散乱原子の成分に分離する試みは初期の頃に行われた.2-12)しかしながら,図4に示すように,光電子ホログラフィーの干渉縞は前方散乱領域で,周波数が変化して三角関数と一致せず,さらに振幅も変化している.これが問題となり,フーリエ変換を用いた方法では解析できない.37)さらに厄介な問題がある.光電子やオージェ電子はさ19