ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
山崎裕一にはデータの欠損領域が存在する.このように,モデル画像から計算された回折パターンにノイズと欠損領域を加えたデータ(図3c)から元画像を再構成できるか数値実験によって確認する.図3eには理想的な回折パターン(図3c)からHIO法による再構成像を示している.ノイズを含まないデータからは元画像を完全に再構成できていることが見て取れる.一方で,図3fには欠損領域とノイズを多く含む回折データ(図3d)からHIO法による再構成像を示しているが,観測データのノイズに過剰適合してしまったためノイズを多く含んだ再構成像になってしまい磁気スキルミオンの存在は確認できない.同じ回折データからスパース位相回復アルゴリズムで再構成した像は図3gのように得られる.ノイズを含んでいるものの磁気スキルミオンが存在する位置の情報は十分に再構成できるていることが見受けられる.図3dの回折データには高空間分解能の情報を含む高角領域と空間的に長い変調成分の情報を含む中心近傍の小角領域の情報がないため,内部構造や磁気コントラストの情報は必ずしも正確には再構成できていない.しかし,解析に使用した中間の角度領域には磁気スキルミオンの位置情報を含んでいるため,L1正則化を使いノイズへの過剰適合を防ぎつつ,位置情報を再構成できることを示唆している.スパースモデリングによる位相回復法では磁気スキルミオンの存在率に対応する正則化パラメータλをどのように決定すべきか,というのも難しい問題となる.存在率と大きく離れたλを設定してしまうと,磁気スキルミオンの位置情報さえ正しく抽出できなくなってしまう.最適化する方法として,λを変化させながらLASSOが最小になる値を決定するλスキャン法がよく使われる.過剰適合を防ぎつつ最適な正則化パラメータを決定するため,観測データを分割し,その一部で解析し,残りの部分で残差を評価する.さらに,解析と評価するデータを入れ替えることで,複数回の解析と検証を繰り返す“交差検証法”を行い,正則化パラーメータの最適化を行う.詳細については原著論文を参照されたい.10)4.まとめ計測対象の説明変数に関する事前情報をL1正則化として組み込んだスパース位相回復アルゴリズムを行うと,ノイズや情報欠損を含む回折データからも必要な情報を有効に抽出できることを見てきた.従来の位相回復アルゴリズムと比べて,試料の事前情報を正則化項によって組み入れられることが有効に作用している.磁気スキルミオンのような孤立磁気構造体の場合には,その数がスパースである場合には,必ずしも精度の良くない回折データからも位置情報を再構成できることがわかる.磁気スキルミオンが高速に運動する様子をシングルショットで観測するような場合には,1つのパルスに含まれる光子数が限られるためノイズの影響を強く受けてしまうが,スパース位相回復アルゴリズムを使えば効率的に情報抽出が可能になると期待される.計測対象の事前情報を基に情報抽出に必要な計測設定ができるため,機械学習による計測の最適化も可能になるだろう.謝辞本研究は,高輝度光科学研究センター(JASRI)の横山優一氏,東京大学大学院新領域創成科学研究科の有馬孝尚教授,岡田真人教授との共同研究で得らえれた研究成果である.文献1)R. Tibshirani: J. Royal Stat. Soc. B 58, 267(1996).2)“岩波データサイエンス”, Vol.5,特集:スパースモデリングと多変量データ解析.3)J. Miao, T. Ishikawa, I. K. Robinson and M. M. Murnane: Science348, 530(2015).4)R. W. Gerchberg and W. O. Saxton: Optik 35, 237(1972).5)J. R. Fienup: Opt. Lett. 3, 27(1978).6)J. R. Fienup: Appl. Opt. 21, 2758(1982).7)J. Otsuki, M. Ohzeki, H. Shinaoka and K. Yoshimi: J. Phys. Soc.Jpn. 89, 012001(2020).8)S. Muhlbauer, B. Binz, F. Jonietz, C. Pfleiderer, A. Rosch, A.Neubauer, R. Georgii and P. Boni: Science 323, 915(2009).9)S. Woo, K. Litzius, B. Kruuger, M. Im, L. Caretta, K. Richter, M.Mann, A. Krone, R. M. Reeve, M. Weigand, P. Agrawal, I Lemesh,M. Mawass, P. Fischer, M. Klaui and G. S. D. Beach: Nat. Mater.15, 501(2016).10)Y. Yokoyama, T. Arima, M. Okada and Y. Yamasaki: J. Phys. Soc.Jpn. 88, 024009(2019).11)V. Ukleev, Y. Yamasaki, D. Morikawa, N. Kanazawa, Y. Okamura,H. Nakao, Y. Tokura and T. Arima: Quantum Beam Science 2, 3(2018).プロフィール山崎裕一Yuichi YAMASAKI物質・材料研究機構統合型材料開発・情報基盤部門Research and Services Division of Materials Dataand Integrated System, National Institute of MaterialsScience〒305-0047茨城県つくば市千現1-2-11-2-1 Sengen, Tsukuba, Ibaraki 305-0047, Japane-mail: YAMASAKI.Yuichi@nims.go.jp最終学歴:2009年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了専門分野:物性物理,放射光科学現在の研究テーマ:コヒーレント回折イメージング手法・装置の開発,磁性体材料・スピントロニクスデバイス材料の顕微・分光計測,および計測インフォマティクスを活用したコヒーレント回折イメージング解析手法の開発.16日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)