ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

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概要

日本結晶学会誌Vol62No1

コヒーレント回折イメージングにおけるスパース位相回復アルゴリズムEn1= FN(2 n k ) ? F21= f ( r ) ? f' ( r )2obs l 22n n l22(7)となる.この残差をf(r)で偏微分して式変形を行えば,各ピクセルにおいて,f' ( nnr ) = f (nr ) ?∂E∂f ( r )n(8)となり,ERアルゴリズム「式(4)]とHIOアルゴリズム[式(5)]のサポート領域内(r∈S)では勾配法による最小化を行っていることがわかる.ERアルゴリズムではr?Sにおいて理想解である0に設定しているため,常にE n ? E n+1となることが示され*12,最急降下法であることがわかる.一方で,HIOアルゴリズムは必ずしも残差が常に減少していくとは限らない.しかし,反復的アルゴリズムによって解が収束したとき,つまりf n+1(r)=f n(r)となったとき,式(5)からr?Sにおいてfn′(r)=0となり,真の解を与えることを意味している.ERとHIOを組み合わせて反復計算を行い,HIOで収束すれば真の解が得られることが保証されているのである.ただし,どちらも式(6)にみるようにF obsとの残差を最小にするような問題設定であるため,F obs(q)にノイズが含まれている場合には過剰適合の問題が発生する.3.スパース位相回復アルゴリズムノイズを含む観測データへの過学習を防ぐために位相回復アルゴリズムにスパースモデリングを導入することを考える.つまり式(6)で表された残差の式に解f(r)が複雑になることへの罰則(L1正則化)を適用するのである.スパースモデリングを紹介するには紙面が限られているので,その詳細は教科書や解説記事を参照されたい.ここでは,スパースモデリングのごく基本的なところを紹介し,位相回復アルゴリズムへの適用法を示していく.3.1正則化とスパースモデリングスパースモデリングの説明によく用いられるのがノイズを含むデータへの多項式のフィッティング問題である.xの入力に対して多項式f(x)=Σn a nx nで応答する現象について,ノイズ(ε)ありのM個の観測データyi=f(xi)+εi(1 ? i ? M)があったとする.最小二乗法による関数フィッティングの問題は,残差|| y i-f(xi)|| 2 l 2が最小になるような係数a={a i}を求めることである.非ゼロの係数が多くなればデータをより良くフィッティングできるが,係数を増やしすぎるとノイズにまで過剰適合してしまう.そこで説明変数の絶対値和(Σi|a i |)をL1正則化項として,残差の評価式に加えることを考える*13.すると,係数の数が増えて残差が減ったとしても,L1則化項が増大するために評価値としては悪くなってしまう.残差と正則化項がほどよいバランスで縮小したときに,最適解を与えると期待される.一般に,入力xに対して行列Aで記述される観測y=Axを考える場合,スパースモデリングでよく使われる手法であるLASSOは,観測との残差にL1正則化を考えた評価式として,??x = arg min?1 2y? Ax + x ?? 2 lλl2 1(9)?xのように記述される.ここでλは正則化パラメータと呼ばれるもので,残差と正則化のどちらに重きを置くかを調整する役目を担っている.LASSOを最小化するアルゴリズムはLARSやADMMなど多く提案されており,解7法の詳細はレビュー論文)などを参照されたい.3.2スパースモデリングと位相回復アルゴリズムの融合位相回復問題も関数のフィッティング問題にほかならない.つまり,「実空間の各ピクセルを係数」としたフーリエ級数展開の関数を使って非線形な観測量にフィッティングする問題とみなすことができる.そのように捉えるとノイズを含む観測量に説明変数である「実空間の各ピクセル」において非ゼロの量がスパースで正則化項を考慮すると過学習が抑制できるイメージをしていただけると思う.この場合,実空間の各ピクセルにおいて非ゼロとなる計測量数の数が疎であることが事前にわかっている試料が計測対象となる.では位相回復アルゴリズムにおいてどのようにスパースモデリングを定式化すべきか考える.式(9)のLASSOと同じように,観測量との残差を表す式(6)に正則化項としてf(r)がスパースであるというL1正則化項を加えればよいので,f ( r) ? 1N F obsF f 2= ? ?? ( r)? ? + f ( r)?arg min?fll ?( r)? 2λ2 21?(10)*10arg minは下付きの文字を変数に対して係る式の最小値を与えるものである.また,||・|| l2はL2ノルムと呼ばれるもので,||a n || l2=a 2∑nnのように自乗和の平方根を与える.*11フーリエ変換A(q)=F[a(r)]に対して,12N2 1 2∑A( q) =∑a( r)が成り立つことを示す定理.有限の離散フーリエ変換では打切り誤差22qrによって等式とはならない.実空間ではサポート領域外でゼロであるので打切りの影響はないが,回折データは有限の領域しか観測できず,その領域外のデータが誤差として影響が残ってしまう.空間分解能が観測領域の境界近くにない限り,高角領域の回折強度は十分に減少しているので,反復的位相回復アルゴリズムにおける影響はそれほど大きくない.*12ERアルゴリズムは残差が繰り返しによって増加しないことを示しているに過ぎず,収束解が残差ゼロになることは意味していない.*13このように説明変数の絶対値のp乗和は,一般にLp正則化と呼ばれる.日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)13