ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
山崎裕一定である.中学数学で習った連立方程式を思い出すと,M個の未知数を決定するためには,独立なM個以上の方程式が必要である.位相回復問題は方程式(測定データ)よりも未知数(実空間の説明変数)のほうが多いので,それだけでは解くことができない劣決定系の逆問題であることがわかる.この問題を解決するのがオーバーサンプリング条件である.簡単に言ってしまえば,計測対象となる試料の事前知識を使って説明変数の未知数の数を減らし,観測データ点よりも少なくしてしまおうということである.そのために使われるのが「試料が存在する領域」を設定し,試料以外からは光が透過してこない*6と設定することである.試料が存在するサポート領域をSで表すと,Sに含まれる領域(r∈S)には試料からの透過光f(r)があり,それ以外の領域(r?S)では光の透過がないのでf(r)=0となる.Sの面積が観測される視野領域Dの面積の半分以下に設定すると未知数の数はN 2以下になるので,回折データ数を下回り解を導くことができる問題設定(優決定系の問題)となる*7.よって離散逆フーリエ変換によって得られた実空間イメージにS以外の領域はゼロであるという条件を課せばよい.2.4反復的位相回復アルゴリズム実空間の拘束条件を課して得られたデータをもう一度,離散フーリエ変換すると逆空間の複素数イメージが得られる.その振幅を測定データを置き換え,さらに,離散逆フーリエ変換を行うという一連のプロセスを複数回繰り返し行っていくのが反復的位相回復アルゴリズムである.4)図1に示すようにアルゴリズムを具体的に立式して詳細を見ていく.n回目の反復位相回復アルゴリズムで実空間像f n(r)が得られたとすると,離散フーリエ変換するとF n(q)=F[fn(r)]となる.この構造因子の振幅情報を計測値F obs(q)に置き換えるには,( ) = ( ) ( ) ( )(3)F' q F q F q F qn obs n nと計算すればよい*8.これを離散逆フーリエ変換することで計測データで解を更新した実空間イメージfn′(r)=F-1[Fn′(q)]を得る*9.実空間では,オーバーサンプリング条件を満たす試料の存在領域Sがわかっているとすると,その領域外(r ?S)であれば透過波は0であり,領域内(r∈S)はそのままになるように更新する.残差縮小(Error Reduction,ER)アルゴリズムでは実空間の拘束はサポート領域の内外で分けて次のように適用してfk+1と更新する.5)図1反復的位相回復アルゴリズムのダイアグラム.(Diagram of iterative phase retrieval algorithm.)反復的位相回復アルゴリズムの概念図.実空間の拘束条件はError Reduction(ER)アルゴリズムを示している.f'nr S f'nf ( ) ??( r )∈∧( r ) > 0n+ 1r = ?(4)?? 0 otherwise理想解はSの領域外が0であるので,ERアルゴリズムはゼロになるように設定する.ERアルゴリズムは最急降下法(詳しくは後述)であるため,偽の解に収束してしまうことも多く,真の解を得にくい問題がある.その後,FineupはHybrid-input-output(HIO)法を提唱した.6)このアルゴリズムでは実空間における解の更新を,S f' nf ( ) ??f'∈∧( ) > 0n+ 1r = n( r ) r r?(5)?? f ( )nr ?βf' ( )nr otherwiseと設定した.サポート領域外の更新式がERアルゴリズムとは異なり,Input関数であるfn(r)とOutput関数であるfn′(r)を混ぜて(hybridして)解を更新している.βはフィードバック定数であり,0.5~1の値が設定される.2.5位相回復アルゴリズムの証明オーバーサンプリング条件を満たすことによって情報量の観点からは優決定系の問題になったが,なぜ反復的なフーリエ変換によって位相問題が解けるのかを見ていく.位相回復アルゴリズムの問題は,f ( r )? 12= F f ( r )?arg min ? ?? ? ? ? Fobs ?l?f ( r)2N 2 2 ?≡arg min E ?? f ( r ) ? ?(6)f ( r)のように観測値との残差E[f(r)]が最小になるf(r)を求めることである*10.n回目に得られた構造因子F n(k)と観測値との残差をE n≡E[f n(r)]とすると,式(3)とパーセバルの定理(Parceval’s theorem)*11から*6孤立物体であれば試料以外は光が一様に透過すると設定する.*7オーバーサンプリング条件とは検出の情報量に関するサンプリングの条件であるが,実際のところサンプリング間隔はカメラ長とピクセルサイズによって制限されてしまうため,試料サイズを実空間の観測可能な領域の半分以下にする条件と考えれば良い.*8ここでの計算は各ピクセルごとに乗除演算を行うアダマール演算であることに注意されたい.*9小文字と大文字がそれぞれ実空間と逆空間,プライム(′)のないときとあるときは,それぞれ実空間と逆空間の拘束条件を課したものと考えると覚えやすい.12日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)