ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1

ページ
14/80

このページは 日本結晶学会誌Vol62No1 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol62No1

赤井一郎,岩満一功,五十嵐康彦,岡田真人,瀬戸山寛之,岡島敏浩原子のデバイ・ワラー因子を解析した結果,われわれの方法で得た値と誤差範囲内で一致12)した.つまりわれわれのスパース・モデリング法は,構造の事前情報を必要としないにもかかわらず,データだけから正しいデバイ・ワラー因子の推定に成功した.5.4 One-standard error則予測誤差最小化に対し,データを解釈する経験的規準として,より正則化されたスパース解を得るOne-20standard error則)が知られている.CVE(λ;σDW)は各foldデータセットで得られる検定誤差の平均値として位置づけられるが,その平均値の標準誤差としてSE(λ;σDW)が評価される.交差検定誤差がλ?で最小値CVE(λ?;?σDW)をとり,そのときの標準誤差がSE(λ?;?σDW)とすると,Onestandarderror則は,CVE(λ1SE;?σDW)=CVE(λ?;?σDW)+SE(λ?;?σDW)図6銅箔EXAFS振動の5-fold交差検定の例.(An exampleof 5-fold cross validation of EXAFS oscillation incopper foil.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.Debye WallerσDW (A°)0.04 0.06 0.08 0.10 0.12σ^DW = 9.15×10 ?210 ?5 10 ?4 10 ?3 10 ?2λ(logarithmic scale)これは予測誤差の最小化20)に対応する.5.3デバイ・ワラー因子の推定予測誤差最小化で,デバイ・ワラー因子を推定するため,X ( )をσDWでパラメータ化した.そこで,σDWをグσDWCVE(λ,σDW )0.170.160.150.140.130.12図7 CVE(λ;σDW)のヒートマップ.(A heat map of CVEリッドサーチして交差検定を行った結果,図7に示したCVE(λ;σDW)のヒートマップが得られる.この結果では,λ?=1.174×10-3で,σ?DW=9.15×10-2Aの値が得らλ^ = 1.174×10 ?3(λ;σDW).)CVE(λ;σDW)の最小化で,σDWが推定できる.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.れるが,交差検定はデータ分割をランダムに行う結果,これらは一意の値にならない.つまり,推定値の精度を評価するためには,交差検定を繰り返し行い,平均値?σDWとその誤差評価などの統計処理12)が必要である.対象とした銅箔において,構造を仮定してFEFFで最近接を満たすλ1SEで得られる解ω(λ1SE)をスパース解として12採用)する.6.まとめ放射光を用いて計測される拡張X線吸収微細構造(EXAFS)は,吸収端エネルギーで原子種を選択した上で,その原子近傍の微細構造の情報を提供する.本稿では,EXAFSの一体散乱過程近似を定式化した基底関数を用いて,スパース・モデリングの適用を行った.本来固体材料では,化学構造および結晶構造で決まる特定の(スパースな)動径距離で隣接原子が配位する.われわれのスパース・モデリングはそれに注目し,スパースな動径分布関数だけでなく,従来はミクロ構造の事前情報が必要とされるデバイ・ワラー因子を,事前情報なしで正しく推定することに成功した.したがって,構造が未解明な新規材料においても有効な解析法となることが期待され,さらにさまざまな研究分野で,このようなデータ駆動科学と結晶学的研究の有機的融合が強く期待される.謝辞本研究は,JST,CREST,JPMJCR1861,JPMJCR1761,およびJST,PRESTO,JPMJPR17N2の支援を受けたものである.文献1)T. Bayes and R. Price: Philos. Trans. R. Soc. 53, 370(1763).2)R. Tibshirani: J. R. Stat. Soc. B 58, 267(1996).3)K. P. Murphy:"Machine Learning: A Probabilistic Perspective",Cambridge, MA: MIT Press(2012).4)J. N. Kutz:"Data-Driven Modeling & Scientific Computation:Methods for Complex Systems & Big Data", Oxford, U.K.: OxfordUniversity Press(2013).8日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)