ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
スパース・モデリングを用いた広域X線吸収微細構造の解析数値は,EXAFS振動振幅が最大値をとるk~7 A-1付近12の値)である.図5a-3,b-3,c-3の赤縦棒強度がRjとともに増加する傾向は,この補償の結果である.ではこの増加傾向は,正しく動径分布関数を評価した結果であろうか?並進対称性の高い結晶系では,それぞれの結晶構造で真の動径分布関数N(Rj)は,スパースなRjで特有の値をとるが,並進対称性が保たれていれば遠距離なほど等価な位置にある原子は増加する.われわれの基底関数を用いれば,平均自由行程の減衰項の補償によって,真の動径分布関数がもつこの傾向を捉えることができる.しかしより正当に減衰効果を取り組むためには,今後,15平均自由行程を電子波の散乱過程)として扱うモデルをスパース・モデリングの枠組みに組み込む必要がある.また,EXAFSは光電子波の散乱干渉現象を利用するため,干渉性が劣化する遠距離では動径分布関数の推定精度は低下する.今後,動径分布関数の統計精度をベイズ推定する方法論の構築が求められる.従来EXAFS振動の解析では,第一近接,第二近接程度の近距離原子の解析に有効と考えられてきたが,今後これらの拡張によって,平均自由行程程度の中距離構造を統計的精度とともに解析することが実現できると考えている.5.交差検定によるデバイ・ワラー因子の自動推定前節では,デバイ・ワラー因子σDW(=0.09 A)を仮定し,ノイズ強度σnoise(=5.69×10-1)も仮定した.しかし適切な情報量規準を用いることで,これらの仮定なしでデータ駆動科学的アプローチが可能である.本節では交3,20差検定)20とone-standard error則)を用いた解析について述べる.これにより,ミクロ構造の事前情報を必要と12)せず,計測データだけからデバイ・ワラー因子の推定が可能となる.5.1交差検定交差検定は,まず対象とするデータから,ランダムにテストデータ(testing set)を抽出する.抽出しなかったデータを訓練データ(training set)と呼び,交差検定は訓練データで学習した結果が,テストデータをどれだけ予測できるかを評価する.計測されたデータをtraining setとtesting setに分割する際,全データ点をランダムな位置で分割し,かつ,全データ点は,各データセットで重複なく1回だけ,しかし必ずtesting setとして選択?することに注意が必要である.N個からなるデータをDとして,? D≡{(x 1,y1),…,(x n,yn),…,(x N,yN)}F-foldの交差検定を行う場合,F組のtraining ? setとtesting setを用意する.ここでデータセットDを分割し日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)た,f(=1,…,F)組目のtraining setとtesting setをそれtぞれ,D r tfとD e tf(D={D r tf, D e tf})とする.このとき,D r fとtD efは次のとおりで,これらに対し以下の解析を行う.?tr tr te?trainig set : Df≡{( xi , yi )}, yf≡{ yi} , i ?,Df??te te tetesting set : D f≡{( xi , yi )}, y f≡{ yi} , i∈,D?f1)指定tされたλでD rfを学習し,ωtr(λ;σf DW)を得る.?2trtr trtrωf(λ;σDW) = arg min ? y f ? X f(σDW)ωf +λωtr ?2ωf???trf1t2)このωr f(λ;σDW)をtr用いて,testing setを検定する.ωf(λ;σDW)が適切な解ならば,X tef(σDW)を用いて得られるX tetf(σDW)ωr f(λ;σDW)は,yt efをうまく予測できるはずである.この予測誤差(検定誤差)を次式で評価する.VE(λ;σ)≡? (σ)ω(λ;σ)te te trf DWyf Xf DW f得られるVE f(λ)は,testing setの抽出がランダムに行われるため,各セットf(=1,…,F)でVE f(λ)はかなり変動する.そこで,VE f(λ)の平均として式(4)の交差検定誤差CVE(λ;σDW)を評価する.F1CVE(λ;σ)DW≡∑VE (λ;σ)f DWNf = 1DW22(4)さらにCVE(λ;σDW)の誤差も評価すべきで,次のよう20にその標準誤差を評価)する.まずVE f(λ;σDW)を各ttesting setのデータ点数n e fで割った平均検定誤差AVE ft(λ;σDW)≡VE f(λ;σDW)/n e fを求め,その標準偏差SD(λ;σDW)を求める.交差検定誤差CVE(λ;σDW)は,検定誤差のfold数Fに対する平均値の位置づけである.よって母集団であるAVE 1(λ;σDW),…,AVE F(λ;σDW)の標準偏差SD(λ;σDW)より,平均値CVE(λ;σDW)の標準誤差SE(λ;σDW)を次式で評価する.1( )≡( )F SDSEλ;σDWλ;σDW5.2銅箔EXAFS振動の交差検定式(3)の基底関数を用いて,図2に示した銅箔EXAFS振動の交差検定結果の例を図6に示した.横軸は対数軸のλで,縦軸は交差検定誤差CVE(λ;σDW)である.ここでは,デバイ・ワラー因子をσDW=8.95×10-2Aとした.λが大きいとtraining setの学習不足で交差検定誤差は大きい.λが小さくになるにつれ,必要な成分が順に抽出されて交差検定誤差は減少する.しかしλが小さ過ぎると,training setに含まれるノイズまでも過学習してしまう.その場合,training setとtesting setのノイズに相関はないため,交差検定誤差が悪化する.つまり図6に示したように,CVE(λ;σDW)を最小化するλ?を発見できる.7