ブックタイトル日本結晶学会誌Vol62No1
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日本結晶学会誌Vol62No1
赤井一郎,岩満一功,五十嵐康彦,岡田真人,瀬戸山寛之,岡島敏浩ば,それを減衰振動波形として基底関数に組み込むことで,平均自由行程による減衰を補償することが可能であると考えられる.また,図3の各ピーク構造は有意な幅をもつ.これは,図2からわかるように,EXAFS振動振幅が小さな波数領域ではk 3の荷重項によって増加し,一方,大きな波数領域で,近接原子の構造ゆらぎや熱的ゆらぎによるデコヒーレンス効果などによって振動振幅が減衰する特徴を有するためである.このように振動振幅が波数kに対して系統的に変化するのに対し,フーリエ変換は波数に対しても振幅が変化しない連続波で展開するため,ピーク構造に有意な幅を与えてしまう.データ駆動科学では,このようなEXAFS振動振幅の変化を組み込んだ基底関数を用いることが可能である.従来,構造ゆらぎなどの詳細なミクロ構造の解析には,FEFF 14)や,GNXAS 15)などが用いられる.FEFFでは,ミクロ構造が既知の場合,デバイ・ワラー因子,位相シフト,平均自由行程の解析が可能である.特にデバイ・ワラー因子は,近接原子の構造ゆらぎや熱的ゆらぎを表す物理量で,化学反応系,イオン導電体,熱電材料で重要な物性量である.しかしミクロ構造の事前情報を必要とするため,新規材料の解析ではデバイ・ワラー因子などの詳細な解析が困難であった.3.EXAFSのスパース・モデリング3.1 EXAFS振動信号の一体散乱近似X線を吸収した原子に対して動径距離R jの位置に光電子波を散乱する原子があるとすると,EXAFS振動を10表す一体散乱過程)は式(1)で表される.3y( k ) =χ( k ) kN R t k k 2? ? 2 2Rj ??∝∑( ) ( )j j exp ? ?kσ( R j)+ 2 ? 2 DWj R ?( k ) ???Λ??j×sin ? + ( )?2kRjδjk ??(1)ここでtj(k),σDW(Rj),δj(k)は,Rjにある散乱原子の後方散乱振幅,デバイ・ワラー因子,位相シフトである.式(1)において,N(Rj)は注目原子に対する動径分布関数で,EXAFS振動の計測データから得たい情報である.しかし従来用いられてきたフーリエ変換では,sin(2kR j),cos(2kR j)を基底関数として展開するため,図3に示したフーリエ変換で得られる動径分布関数には,N(Rj)以外に,後方散乱因子項,デバイ・ワラー因子による減衰項,平均自由行程による減衰項が畳み込まれており,N(Rj)の理解を困難にさせる.3.2 LASSO法スパース・モデリングには,Least Absolute Shrinkage2and Selection Operator(LASSO)法)を用いた.推定パラメータをω?(={ω1,…,ωm,…ωM})として,LASSO法は,ノイズn ?が重畳した解析対象データをy ?(={y 1,…,yn,…,y ? ? N})としたとき,y=Xω?+n ?の線形回帰問題において,残差二乗和2N?M? ? ? ?∑?yn ?∑Xnmωm?≡y ? Xωn=1?m=1 ?に,ω?の一次ノルムM∑m=1ωm?≡ω1を,ω?の非スパース性のペナルティー項として付加して最小化(L1正則化)させ,ω?のスパース解?ω?を得る.2ω(λ) = arg min y ? Xω2+λω1(2)ω22( )ここでNはデータ点数で,Mは推定パラメータの個数,λはスパース性の制御パラメータである.X ?はy ?とω?をつなぐ線形写像行列X X X X , X= ( )≡1m M m? X??? X???? X1mnmNm????????で,X mは,ω?中のωm成分の基底関数である.推定パラメータ数とデータ点数が一致(N=M)する場合,X ?は正方行列で,その逆行列X ?1が存在する場合,ω?はω?=X ?1 y ?で得られる.一方推定パラメータ数が少ない(N>M)場合,ω?は最小二乗法で求めることができる.例としてx ?(={x 1,…,xN})に対応するy ?を,y ? ? ax ?+bで直線回帰する場合を考える.ここで,ω?={a,b}とし,X ?=(X?b?, X),X a={x 1,…,xN},X b={1,…,1}とすbると,最小二乗法で最小化する残差二乗和E(a,b)は,2式(2)中のy ? Xω2と等価で,λ=0で最小二乗法の解が得られる.しかし回帰関数を高次化して,y ? M m?∑m=0ωmxで回帰する場合,データに重畳するノイズまでも再現する過剰フィッティングとなる.逆にλ→∞の極限では,2式(2)のy ? Xω2項が無視され,ω?の全要素がゼロの解が最小化解である.これは,データすべてをノイズと認識し,基底関数で説明される成分がデータに含まれないことを意味する.LASSO法はその両極限の間で,過剰フィッティングを避け,データを説明するのに必要な主成分を抽出できるように,適切な情報量規準でλを決定する.LASSO法は,推定パラメータ数がデータ点数よりも16,17多い(M>N)不良設定問題の解法)としても用いられる.この場合,y ?=X ?ω?を満たす解は複数存在し,λω1の付加条件によって唯一の解を得る.この場合も同様に,適切な情報量規準に沿って,0<λ<∞の範囲でλを決定する.3.3 EXAFS振動の物理モデル構造の事前情報なしで,EXAFS振動信号データのス4日本結晶学会誌第62巻第1号(2020)