ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
日本結晶学会誌61,205-206(2019)最近の研究動向新規Fe-Mg系酸化物の結晶構造と地球深部科学バイロイト大学バイエルン地球科学研究所石井貴之Takayuki ISHII: Crystal Structure of a Novel Fe-Mg Oxide and Deep Earth ScienceFe-O系酸化物は,地球を構成する元素の内,最も豊富な2つの元素で構成され,地球上で幅広く分布している.1気圧で安定である代表的な鉄酸化物として,Fe 2+Oウスタイト,Fe 2+Fe 3+2O 4マグネタイト,Fe 3+2O 3ヘマタイトが知られている.これらの相の相対的安定性は,岩石の局所的な酸化還元状態と直接的に関連しており,大気-地球内部間の酸素循環や地球深部の酸化還元状態,さらに初期地球形成からの酸化還元状態の変化を理解するために重要である.上記の理由から,地球深部に相当する温度圧力条件において,これら鉄酸化物の安定性が議論されてきた.しかし,近年の実験的研究により,さまざまなFe 2+/Fe 3+比をもつ新規鉄酸化物(直方晶相Fe 2+Fe 3+2O 4,Fe 2+2Fe 3+2O 5,Fe 2+3Fe 3+2O 6,単斜晶相Fe 2+3Fe 3+4O 9)が高温高圧下で安定であることが明らかになってきた.1)-4)このことは,地球深部での鉄酸化物の相関係が非常に複雑であることを示しており,地球深部科学のこれまでの理解の見直しを強いる重要な発見となった.また地球内部は,大部分がマグネシウムケイ酸塩(Mg 2SiO 4やMgSiO 3)を主成分としており,これら鉄酸化物との固溶体の有無は,地球深部での安定性をより正確に議論するために重要である.これまでに,Fe 4O 5,Fe 5O 6,Fe 7O 9については,MgによるFe 2+の置換(Mg端成分Mg 2Fe 2O 5,Mg 3Fe 2O 6,Mg 3Fe 4O 9との固溶体形成)が起こり,一方で,ケイ酸塩成分はほとんど固溶しないことがわかっている.4)-6)このことから,地球深部にはさまざまな化学量論組成をもつMg-Fe系酸化物が存在している可能性が示唆される.これら新規Mg-Fe酸化物の化学組成は,X2+1+nX 3+2O 4+n(X=Fe 2+,Fe 3+,Mg)で表され,4)これまでにX 3O 4(n=0),X 7O 9(n=0.5),X 4O 5(n=1),X 5O 6(n=2)などが発見されてきた.1)-6)筆者らはこの点に着目し,異なるFe 2+/Fe 3+比をもつ新規Mg-Fe酸化物(Mg,Fe)9O 11(n=1.5)の高温高圧合成を試みた.本稿では,著者らが合成に成功した新規Mg-Fe酸化物の7結晶構造)と近年報告されたその他新規Mg-Fe酸化物との結晶化学的関係,地球科学的関連について紹介する.新規Mg-Fe酸化物は,12 GPa,1300℃の条件で,マルチアンビル高圧発生装置を用いて合成した.合成した日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)試料を粉末にし,ガラスキャピラリーに詰め,Mo Kα1線を用いて,透過法によってそのX線回折データを取得した.得た粉末X線回折パターンから,回収した相はCa2Fe2+3Fe3+4O11型構造(単斜晶系,空間群C2/m,Z=2)8)を有することがわかり,格子定数は,a=9.8441(5)A,b=2.8920(1)A,c=14.1760(6)A,β=99.956(4)°,V=397.50(3)A3と決定された.また,EPMAで求めた化学組成は(Mg 0.87(1)Fe 2+4.13(1))Fe 3+4O 11であった.リートベルト解析により精密化した結晶構造は,三角柱席(M1)1つと八面体席(M2,M3,M4,M5)4つの計5つの非等価な陽イオン席で構成されている(図1).Mgは,M1,M2,M3席をFeとともに占め,特にM3席へ選択的に収容される.M4,M5席は,Feのみを収容する.M4,M5八面体席は,1本の結合距離が比較的長く,むしろ四角錘に近い.これら4つの八面体席は,お互いの稜または頂点を共有し,八面体の連結からなる骨格構造を形成する.骨格構造中には,b軸方向にトンネル空間が走り,三角柱M1席がその空間中に作られている.Fe 2+とFe 3+の席分配は,Bond Valence Sum(BVS)の計算から推定した.M1席の陽イオンのBVSは2より若干小さい値(+1.71)であり,Fe2+のみがこの陽イオン席を図1(Mg0.87(1)Fe2+4.13(1))Fe3+4O11の結晶構造.7)(Crystalstructure of(Mg 0.87(1)Fe 2+4.13(1))Fe 3+4O 11.)描画にはVESTAを使用.9)205