ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
日本結晶学会誌61,203-204(2019)最近の研究動向伝導性MOFの最近の展開東京工業大学理学院化学系大津博義Hiroyoshi OHTSU: Recent Progresses in Conductive MOFs1.はじめに近年,MOFと呼ばれる一連の化合物の研究が盛んである.MOFとはMetal Organic Frameworkの略称であり,日本語では有機金属構造体などとも呼ばれることもある.また,Porous Coordination Polymer(多孔性配位高分子;PCP)やCoordination network(ネットワーク錯体)などといった呼称もあるが,本稿ではMOFという呼称で扱うこととする.1)さて,MOFは金属イオン(もしくはSBU(SecondaryBuilding Units)と呼ばれる金属クラスターユニット)と有機物の架橋配位子(一般的にはカルボン酸イオンやピリジル基をもつ有機分子)が無限につながった構造体であり,金属イオンのもつ配位結合の方向性により,三次元周期構造をもつ場合がほとんどである(図1).MOFは周期的な細孔をもつ場合が多く,ガス吸着や触媒などへの応用が期待されている.三次元周期構造をもつMOFは結晶として扱うことができるので,MOFの研究に対する結晶学の貢献は計り知れないものがある.吸着ガス分子の可視化や反応のX線による可視化などはその一例である.2,3)一方で,MOFは細孔のサイズ選択性やゲストの特異的な選択性などから,化学センサなどへの実装も期待されて図1(a)MOFの模式図およびMOF内の2つの伝導経路である(b)結合を介した経路と(c)空間を介した経路の模式的表現.(Schematic figure of(a)MOFand their conductive pathway;(b)through bond and(c)through space.)日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)おり,電子デバイスなどへの活用が期待されている.しかし,MOFをデバイスに実装する際に一番問題になるのがその絶縁性である.一般的なMOFは硬い金属イオンと架橋カルボン酸イオンからなる場合が多く,軌道の混合がないため,伝導性がない.これがMOFの電子デバイス応用への大きな妨げとなっていた.近年,これを克服し,伝導性MOFを得るためのストラテジーが確立されつつある.伝導性を獲得したMOFはエネルギー貯蔵材料や変換材料にもなりうるため,伝導性MOFに対する期待は大きい.本稿では,このような伝導性MOFについて概観する.本稿では電子伝導性を主たる対象として記述するが,プロトン伝導性に関しても種々の研究があることを付記しておく.4)2.伝導性MOFへのストラテジー電子伝導性を獲得するための条件は構造内での伝導経路の確保である.すなわち,構造内に電子が動ける経路が存在しなければならない.一般に金属では金属結合の性質により,無機半導体では共有結合の性質により,結合を介して電気を流す経路ができている.では,配位結合を有するMOFで電荷(もしくは電子)の移動する経路を作り出し,伝導性を出すにはどうしたらよいのか.まず重要なのはMOFを構成するコネクターもしくはリンカーのユニットが酸化還元活性をもつ必要があるということである.すなわち,電子のやりとりに必要なエネルギーが小さい必要がある.そのうえで,MOFに伝導性をもたせるためには,図1に模式的に示したように2つの伝導経路がある.5)1つは結合を介した経路,もう1つは空間を介した経路である.結合を介した経路とは,MOFを構成する配位結合を介して電子のやり取りをする経路である.伝導性MOFとして最も古いものの1つである高石らの報告したCu[Cu(pdt)2](pdt=2,3-pyrazinedithiolate)はこのような経路をもつ例の代表的なものである.6)これは酸化還元活性をもつ電子アクセプター[CuⅢ(pdt)2]-ユニットと電子ドナーユニットCu IからなるMOF結晶であり,6×10-4 Scm-1という比較的大きな伝導度を示す.近年では,このような結合を介した伝導性MOFの例は増えており,特に混合原子価状態の伝導度に対する寄与の大きいことが近年明らかになってきている.7,8)一方,空間を介した経路とはπ-πスタッキングなどの空間的相互作用により電子のやり取りをする経路である.π203