ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

クリスタリット可変量を変えながら,回折データと一致するまで充填モデルを探索していく.部分的に構造情報を与えているため,低分解能データでも適正な解を得やすく粉末回折法との相性も良い.しかし,モデル構築のために導入する分子構造やその数が間違っている場合は解が得られないので,元素分析やNMRなどをつかって情報を補完することが望ましい.(国立研究開発法人産業技術総合研究所池田拓史)固体NMRSolid-State NMR固体(粉体)試料に特化したNMRのこと.溶液と異なり,固体中では分子や原子・イオンが互いに強い相互作用のもとで配列していることから,それぞれの核スピンの運動性が抑制され,溶液NMRに比べ低感度で幅広いスペクトルを与える.このため固体NMRでは,試料を静磁場方向から54.7゜傾けて試料を高速回転させるmagicangle spinning(MAS)法や,異種核間で磁化移動させる交差分極法,強力なラジオ波を照射してスピン間の相互作用を打ち消すデカップリング法などを用いて高分解能化させ,観測核周辺の局所構造情報を得る.近年では,異種核間の結合情報が得られる二次元NMR測定も容易になり,通常の結晶だけでなくアモルファス材料の構造解析にも威力を発揮する.一方,幅広いスペクトルからは,固体中の相互作用に関する情報を引き出せるため,MASなどを使わないstatic NMRも物性研究ではよく利用されている.(国立研究開発法人産業技術総合研究所池田拓史)周期境界条件を用いた計算Calculations Using Periodic Boundary Condition気相での分子やクラスター(分子集合体)の構造や物性を計算する場合は孤立した分子やクラスターの計算を行えば良いが,結晶や液体などの凝縮系の計算では隣接分子の影響を考慮する必要がある.だが,計算を行う分子数が増えると計算時間が分子数のべき乗に比例して急激に増え,計算は困難になる.周期境界条件を用いた計算では,実際に計算する分子の入った解析セルの周りに,解析セルと同じ構造(分子配置)をもったセルを無限に並べ,周囲のセルに入った分子との相互作用も考慮して解析セル中の分子の計算を行う.周期境界条件を使わないクラスターの計算では,表面効果が原因でクラスターの表面の分子と内部の分子では電子状態が異なるが,周期境界条件を用いると表面効果を除いて凝縮系の計算を行うことができる.(産業技術総合研究所都築誠二)分散力補正DFT計算Denstiry Functional Calculationwith Dispersion Correction密度汎関数理論は電子密度からエネルギーなどの物性を計算する手法であるが,密度汎関数法(DFT法)では密度汎関数理論に基づいて電子状態を計算法する.DFT法では電子の運動がほかの電子の運動に与える影響(電子相関)を取り込めるが,電子相関が原因で分子間に働く引力である分散力は評価することができない.有機結晶や生体分子では分散力による引力が静電力などのほかの分子間力以上に重要なことが多く,これらの系の計算にDFT法を適用する際の問題となっていた.Gaussianなどの量子化学計算プログラムで利用できる分散力補正DFT法では,DFT計算を行う際にポテンシャル関数を使って分散力の寄与を補正している.補正項の精密化が進められており,B3LYP汎関数と分極関数を含む基底関数系を使った計算にGrimmeのD3補正を行うと高精度のCCSD(T)計算に近い結果が得られることが少なくない.(産業技術総合研究所都築誠二)微分位相コントラスト法Differential Phase-Contrast ScanningTransmission Electron Microscopy走査透過型電子顕微鏡(STEM)における位相イメージング法の一種である.入射電子線は,観察対象である物質を透過する際に位相変化を受ける.試料が十分薄い場合には,電子線の位相変化を定量的に取り扱うことにより,物質の静電ポテンシャルを再生することが原理的に可能である.STEMでは回折面に検出器を配置できるが,分割型検出器あるいはピクセル型検出器を用いることにより,各試料位置における収束電子回折パターンの方位角方向の情報取得が可能となる.例えば,透過波領域に配置された4分割の検出器では対向する検出器間でのkxあるいはky方向への差分演算により,電子線の位相が微分されるため,微分位相コントラスト法と呼ばれる.これは,物質が保有するポテンシャルの微分に相当するため,物質中(真空中)の電磁場観察が可能となる.プローブ径によるが,メゾスコピックから原子分解能までの幅広い空間分布に対応した電磁場の観察が実現している.(東京大学総合研究機構石川亮)244日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)