ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

クリスタリットリチャードボックスRichards Boxグラフィクスが出現する前の1960~70年代,タンパク質の分子モデルを電子密度に合わせられるようにF. M.Richardsが考案した装置である.1)標準的な装置は45°に傾けたハーフミラー(半透明の鏡)をはさんで,等高線で描いた電子密度と分子モデルを重ねて見えるようにしたものである.ハーフミラーの奥に透明シートに描いた電子密度を重ねて置き,床に分子モデルを置くと両者が重なって見える.これを利用して分子モデルを組み立てることができる.左手系の分子モデルができるように,電子密度は右手系になるように重ねた.1)F. M. Richards: J. Mol. Biol. 37, 225(1968).(大阪大学名誉教授福山恵一)FRODOA. Jonesが開発したタンパク質の分子モデルを組み立てるコンピュータープログラムである.年々改良が重ねられ,1980年代に分子モデルを組み立てる装置はリチャードボックスに取って代わった.初期の頃は通常FRODOをインストールしたワークステーションを使って,分子モデルを組み立てた.ワークステーションの画面には電子密度の等高線レベル,モデルの大きさや見る方向を自由に選んで表示できるようになった.これにより分子モデルを組み立てることがずっと容易になり,また分子モデルから各原子の座標を読み取る必要はなくなった.その結果として,タンパク質ごとに広いスペースが必要でなくなり,また何よりも原子座標の精度が大きく向上した.近年ではFRODOのほか多様なソフトウェアが出回っており,パソコンでより複雑な分子なモデルを組み立てられるようになっている.またモデルビルディングを自動化するプログラムも開発されている.1)1)M. Yao, et al.: Acta Crystallogr. Sect. D 62, 189(2006).(大阪大学名誉教授福山恵一)単粒子解析による三次元精密化3D Refinement with Single Particle Analysis三次元精密化は参照構造からの再投影像と粒子像の日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)適合度を最大化することで,各粒子像の推定投影角度を精密化し,低分解能構造から近原子分解能構造を得る.まず,二次元平均画像から生成した初期参照構造を再投影し,均等分布の投影角度に対応する複数の参照投影像を計算する.次に粒子像と全参照投影像を比較し,適合度が最も高い参照投影像の三次元投影角度をこの粒子像の投影角度として適用する.これを全粒子像に対して行い,対応づけた三次元角度を使って中央断面定理に従い逆投影によって推定構造を得る.推定構造を新しい参照構造とし,分解能向上が得られなくなるまで上記の処理を繰り返す.本工程において,SPHIREではユーザーファンクションを利用して着目したい三次元領域のみを強調して参照構造から投影像を生成することで,焦点を絞った三次元精密化ができる.そのため,対称性の異なる領域をもつタンパク質構造の解析にも容易に対応できる.(北里大学理学部松井崇)ナノ空間物質Nanoporous Materials結晶の中に分子や原子またはイオンが入ることのできるnmサイズの空間(細孔)をもつ物質のこと.ゼオライトや多孔性配位高分子では,直径2 nm未満のカゴ型や筒型,それらが交差した形状など多彩な細孔構造が原子レベルで構築され,周期的に配列している.層状ケイ酸塩や粘土では隣接する骨格レイヤーの間(層間)に二次元的なナノ空間が形成され,ゲスト物質を取り込むことで空間が増大することもある.またメソポーラスシリカは,2~50 nm程度のメソ孔と呼ばれる周期的に配列したナノ空間を有するが,メソ孔を構成している壁は非晶質構造となっている.ほかにもカーボン材料,酸化グラフェン,有機-無機ハイブリッド化合物,ポリマー,無機ナノシートなども,結晶の集積化や高次構造の制御を行うことでナノ空間物質にすることができ,デバイスや反応場などへの応用を念頭に研究開発がなされている.(国立研究開発法人産業技術総合研究所池田拓史)実空間法Direct Space Method対称性を伴う実空間(単位胞)内で任意で構造モデルを作製し,構造モデルから計算された回折強度と実験データを比較することでモデルの良否を判断し構造を求めていく手法である.今日では粉末回折データによる低有機分子化合物の解析法として常套手段となっている.あらかじめ分子構造がわかっている場合,単位胞内における分子の座標や配向および分子構造内で許される自由度が可変パラメータとなる.シミュレーティッドアニーリングなどのアルゴリズムを用い,パラメータの243