ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
金子耕士二乗解析よりωRで大きく改善している.得られた結果を見ると,Sbケージの中心に,Prイオンに対応する非常に拡がった立方体上の核密度分布の存在が見える.比較として,先の最小二乗解析から得られた構造パラメータを基に描いた,熱振動楕円体図を図2bに示す.両者では,図2aが核散乱長の等密度レベル面(5,000 fm/nm 3)で表されているのに対し,図2bでは元素ごとの存在確率(80%)となっているため,同じ中性子回折の結果を用いているが異原子間の分布が異なって見えている.Prに着目すると,MEM解析の結果では,立方体状の異方的な分布が得られているのに対し,最小二乗解析では,等方的な球形の分布となっている点が大きく異なっている.これは先に述べたとおり,最小二乗解析では,制約から等方性原子変位パラメータに限られているのに対し,MEMでは空間群の許す範囲で,異方性や分布形状が任意であることに起因している.またX線と中性子線の違いを見るため,単結晶X線回折およびMEM解析から得られた結果を図2cに示す.X線についても,最小二乗解析ではR=1.8%と中性子と同程度の良いデータを用いている.ここでの分布は,核散乱長密度に変わり電子密度分布であり,等電子密度面は4×10 4 e/nm 3である.両者を比べると,X線の結果では全体的に拡がった分布となっていて,元素間の違いも中性子ほど明瞭ではないことがわかる.この結果,異方性など分布の詳細な形状についても,X線ではぼやけてしまっている.これは前節で述べたとおり,X線の散乱体が原子核の周りに拡がる電子であることに起因している.23)異方性および構造の詳細を見るため,Prの核密度分布について,[100],[111]方向の一次元断面図を図3に示す.異方性について見ると,[100]に比べ,[111]に拡がっていることがわかる.この方向はSbカゴの空隙の1つで,Osの方向に対応している.拡がりの半値全幅(FWHM)は,0.057 nm([100]),0.074 nm([111])と巨大である.同図には,Sbの[100]方向の分布も合わせて示してある.Sbの分布は明らかに鋭く,FWHMは0.016 nmと,Prの値のほうが4~5倍大きい.PrとSbは,それぞれ4.58 fmと5.57 fmと近い干渉性散乱長の値をもつため,同様の分布をしていれば,最大密度も近い値となるはずである.図3に示すとおり,この値が両者で2桁以上異なっており,Prの核密度が空間的に大きく拡がっていることを示している.Prの核密度分布に関して特筆すべきもう1つの特徴は,その形状である.今回のMEM解析の結果を見ると,台形に近い形をしている.調和振動子の場合,Sbの分布で見られるようにガウス型の分布が期待される.Prの分布がガウス分布から大きく外れていることは,強い非調和性の存在を示している.さらにこの台形型の分布にお図3室温でのPrOs 4Sb 12のPrの核散乱長密度分布.(Nuclearscattering density profile of Pr in PrOs 4Sb 12 at roomtemperature.)[100],[111]方向(左軸)と参照としてSbの[100]方向の分布(右軸)およびPrの三次元核密度分布(内挿図)を示す.いて,差はわずかではあるが,Prの最大密度はカゴの中心から〈111〉方向に0.02 nm外れた場所にあることも注目に値する.この結果からは,Prの安定位置が非中心であるように見える.4.2 NdOs 4Sb 12の構造解析PrOs 4Sb 12で得られたPrイオンの非調和振動について理解を深めることを目的として,内包イオンを隣接するNdに入れ換えたNdOs 4Sb 12についても同様の単結晶中性子回折実験を行った.最小自乗解析では,R=1.99%,ωR=1.96%とほぼ同程度の結果が得られた.格子定数もPrOs 4Sb 12と同じで,ランタノイド収縮が見られないことから,Ndイオンと格子の結合は弱いことが窺える.Ndの等方性原子変位パラメータU isoは,480 pm 2とPrと比較してもさらに大きくなっている.NdOs 4Sb 12についてもより詳細を見るため,同条件でMEM解析を行った.R=1.96%,ωR=1.74%と,PrOs 4Sb 12のときと同様にωRに大きな改善が得られた.得られた分布を図4に示す.ここではPrとNdの散乱長の違いを反映した核密度レベルで示している.Sbカゴの中心にNd原子核に対応した拡がった分布が見られる.その分布形状は球形からずれた異方的な分布となっているが,Prとも形状が異なり〈100〉に伸びた分布となっている.詳細を見るために,[100]方向の断面についての核密度プロファイルを図5に示す.この分布は台形型となっていて,PrOs 4Sb 12と同様に強い非調和性を示している.また等方性原子変位パラメータと同様,Prよりも幅はさらに拡がっていることがわかる.4.3 PrRu 4Sb 12の構造解析PrOs 4Sb 12とNdOs 4Sb 12で得られた希土類イオンの非調和振動が幾何学的な配置だけで決まっているものなのか調べることを目的として,同じ格子サイズをもち240日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)