ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

単結晶中性子回折を利用した精密構造解析間群T hに起因している(図1参照).この場合,non-cyclicな指数をもつ反射は非等価となる.すなわち,1 3 0反射と3 1 0反射,2 3 1反射と3 2 1反射など,同じ面間隔をもつ反射の構造因子が異なる.これらの非等価な反射は,粉末回折パターンでは重なってしまう.また単結晶でも,マルチドメインが存在する場合には同様の問題を生じ,解析が複雑となる.17)したがって,単一ドメインからなる試料を用意することが本研究では重要な位置を占める.幸運にも,今回育成した充填スクッテルダイトの単結晶試料では,すべて単一ドメインであることが確認されている.18)解析手法として,一般的に用いられる最小二乗解析では,特定の原子核の非中心サイトの可能性に加え,非調和熱振動を解析することは容易ではない.非中心サイトの場合,スプリット・アトム法により手動で何らかの対称性をもつ特殊位置を仮定し,占有率の和が1になるように解析を行う.非調和振動についても,非中心サイトに加え,対称性を考慮したモデルを導入する必要がある.したがって,解析は強いモデル依存性をもつことになる.モデルを立てずに非中心サイトを探る方法としては,フーリエ合成が利用されてきた.この場合,実空間での核密度分布を得ることができる点では良いが,高次反射の打ち切り誤差の影響や,負の核密度が許されることにより,偽のピークが問題となり,非中心サイトや非調和性など,詳細な核密度分布の形状を議論するうえでは,注意が必要となる.マキシマムエントロピー法は,構造解析に限らず,一般的に逆問題にアプローチするための手法である.構造解析では,実験で求められた構造因子およびその誤差と空間群,ユニットセルに含まれる散乱長の総和を入力するだけで,手法それ自体はモデルフリーの解析法と言える.フーリエ合成と同じく,結果として実空間における核密度が得られるが,打ち切り誤差や,負の核密度といった問題は原理的に存在しない,このため,オフセンターサイトや非調和熱振動など,モデル化の困難な未知構造の解析において,きわめて有力な手法で,本研究の目的に合致している.4.RT 4 Sb 12の単結晶中性子構造解析以下では実際の解析例として,充填スクッテルダイト化合物のうち,重い電子超伝導体であるPrOs 4Sb 12を軸に,同じく重い電子状態を示すNdOs 4Sb 12と,比較としてほぼ同じカゴの大きさをもちながら重くないPrRu 4Sb 12について,単結晶中性子回折実験の結果を示していく.19,20)単結晶中性子回折実験は,中性子4軸回折計FONDERにて,波長0.124 nmを用いて行った.MEM解析および可視化には,PRIMA 21)およびVESTA 22)を使用した.4.1 PrOs 4Sb 12の構造解析はじめに,PrOs 4Sb 12の室温の結果から示す.構造解析を行うにあたり,実験では各測定条件において300程度の独立なブラッグ反射の強度を測定した.まず得られた測定データについて,空間群Im3,Prイオンはカゴの中心である2aサイトを占める通常のモデルを用いて最小二乗解析を行った.結果としてR因子はR=2.04%,ωR=2.03%と,良い値が得られた.このとき得られたPrの等方性原子変位パラメータU isoは,430 pm 2ときわめて大きく,X線回折や粉末中性子回折と一致している.17,19,23)ここで注意すべき点は,2aサイトは対称性が高く,異方性原子変位パラメータが許されないため,熱振動は等方的に扱われていることである(U 11=U 22=U 33,U 12=U 23=U 13=0).次に最小二乗解析と同じデータセットを用いて,MEM解析を行った.MEM解析では,構造パラメータの代わりに,実空間における核密度の分布が得られる.今回,ユニットセルを256×256×256に分割し(1ピクセル:(4 pm)3)解析を行った.得られた結果を図2aに示す.MEM解析のR因子は,R=2.03%,ωR=1.64%と,最小図2充填スクッテルダイトPrOs 4Sb 12の室温における構造解析の結果.(Result of structural analyses for the filledskutterudite PrOs 4Sb 12 at room temperature.)(a)単結晶中性子回折+MEM解析による核散乱長密度分布.(b)単結晶中性子+最小二乗解析による熱振動楕円体.(c)単結晶X線回折+MEM解析による電子密度分布.日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)239