ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4

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概要

日本結晶学会誌Vol61No4

石川亮,柴田直哉,幾原雄一る(微分なので,極大か極小は区別できない).したがって,アニオンはBサイトに吸着すると考えられる.第一原理計算により全単原子の吸着サイトが計算されており,貴金属(Cu,Pd,Ag,Pt,Au)を除くカチオンはH6サイト,アニオンはBサイトに吸着すると報告されている.21)したがって,原子電場像からの予測はおおむね正しいことがわかる.グラフェンの場合には第一原理計算による評価が可能であるが,複雑な物質系や系が大きな場合には計算が困難であり,実験による電場構造解析が局所的な化学反応場の理解に役立つと考えられる.3.3 Si点欠陥における原子電場の異方性上述のように,物質中に形成される原子電場は電荷に対する力場であることから,欠陥領域に形成された電場の非等方性を介して化学結合を反映した観察を試みた.Siはグラフェン中に多く観察される代表的な不純物であり,3配位(Si-C 3:SCを置換)と4配位(Si-C 4:2つのCを置換)の2種類の点欠陥がよく知られている.22,23)図4に3, 4配位のSi点欠陥から得られた原子分解能ADF像および同時に取得した電場強度像,電場方向像を示す.SiはCと比較すると重い元素であり,ドーナツ型の電場強度として観察される.しかし,Si原子の電場強度分布を注意深く観察すると,円対称ではなく3回,4回対称な電場を形成していることがわかる(残留収差のためにやや非対称).Siと周囲のCは共有結合の方向に沿って反対符号の原子電場を形成するため,Siの原子電場は矢印の方向に沿って抑制され,点欠陥の構造に応じて3回あるいは4回対称な原子電場が形成されたことがわかる.観察されたSi原子電場の異方性を確認するため,実験条件と同じ光学条件下での像計算を行った.ここでは第一原理計算による構造緩和を行った構造モデルを用いた.図4d,hに電場強度の計算像を示すが,実験により観察された異方的なSi原子電場がよく再現されていることがわかる.したがって,観察された異方的な原子電場は局所の化学結合を反映していることが示された.3.4トポロジカル欠陥における電場構造グラフェン中には不純物などの点欠陥に加え,空孔に代表されるトポロジカルな欠陥も多く形成される.例えば,図4aにはSi原子の周囲に5,8員環,あるいはナノサイズのホール(穴)が形成されている.これら欠陥位置における電場強度を観察すると,5員環では電場強度が抑制されているのに対し,8員環では相対的に増大していることがわかる.したがって,共有結合系での局所的な電場強度は,(1)原子間距離(結合長),(2)配位数の2つのパラメータで記述できそうである.共有結合は原子間距離が近い場合に形成されるが,結合長が長い場合には反対方向の成分をもつ原子電場の重なりが小さくなり,電場強度が周囲よりも相対的に増大する.また,配位数が少ない場合には,反対方向の成分をもつ原子電場の重なりが少なくなり,相対的に電場強度が増大すると予想される.これを検証すべく,第一原理計算によりStone-Wales欠陥(5-7-5-7)24)を含む構造モデルを作製し,像計算を行った(図5).6員環では結合長が1.42 Aであるのに対し,5,7員環ではそれぞれ1.38,1.46 Aである.局所的な電場強度は,微小な結合長の変化にきわめて敏感である.結合長の短い5員環内部では電場強度が抑制されているのに対して,結合長の長い7員環内部図4Si点欠陥を含む単層グラフェンから得られたADFおよびDPC-STEM像.(ADFandDPC-STEMimagesobtainedfromSipointdefectsinmonolayergraphene.)ADF-STEM像,電場強度像,電場方向像および計算による電場強度像.(a)~(d):Si-C 3欠陥,(e)~(h):Si-C 4欠陥.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.234日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)