ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
グラフェン欠陥の原子電場構造解析図3単層グラフェンから得られたDPC-STEM像.(DPC-STEM images obtained from monolayer graphene.)(a)単層グラフェンの結晶構造と分割型検出器の方位関係,(b),(c)ADF-STEM像,(d)電場強度像,(e)電場方向像.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.試料を透過する際の多重散乱により,電子線の位相情報つまり電場情報が失われる.この影響を排除すべく,本研究では軽い炭素原子1つから構成される単層グラフェンを選択した.また,単層グラフェン中には合成時に意図せず導入されるシリコン原子や原子空孔を含むトポロジカルな欠陥が形成されており,これらの周囲の原子電場を観察することで化学結合を反映した観察を試みた.単層グラフェンでは多重散乱の問題を回避できるが,克服すべき課題がいくつか残されている:(1)炭素原子1つから受ける電子線の位相変化はきわめて小さいため信号雑音比の改善,(2)電子線による照射ダメージの抑制が必要となる.信号雑音比は,同一領域から高速走査像を多数取得し,像の重ね合わせにより改善を試みた.19)また,電子線照射によるノックオンダメージは80 kVの低加速電圧を用いることで抑制した.3.2単層グラフェンの原子電場図3に16分割型検出器とグラフェンとの結晶方位関係,単層グラフェンから取得したADF像,電場強度像および電場方向像を示す.ADF像は格子振動による熱散漫散乱により,炭素原子の位置が輝点として結像される.グラフェンは共有結合性が強く,原子間距離が1.42 Aと小さいため,各炭素元素が作る原子電場が部分的に重なる.したがって,炭素原子位置であるtopサイト(T)に加え,対称性の高いbridgeサイト(B)やhollowサイト(H6)において原子電場の重ね合わせにより,複雑な電場像が形成される.Bサイトでは隣接する2つの炭素原子が反対向きに同じ大きさの原子電場を有するため,打ち消される.同様に,H6サイトでも周囲の6つの日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)原子電場の重ね合わせにより打ち消される.Tサイトでは,観察している投影方向に原子自身の電場が打ち消される(本質的ではない).以上より,共有結合性の強い材料では,原子電場の重ね合わせにより対称性の高い空間位置において電場強度が極小(暗点)となることが電場強度像から理解できる.投影された電場は二次元ベクトルであり,疑似カラー(左下)を用いて,各位置における電場方向を図3eに示す.原子核(中心)から遮蔽している電子雲に向かって原子電場が形成されるが,共有結合の方向では電場が抑制されるため,白矢印で示す異方的な電場構造となる.次に得られた原子レベルでの電場分布から何が理解できるかについて考える.ここではグラフェン上に吸着される原子(分子)の安定サイトを電場分布から予想する.一般に金属単原子は外殻電子を失いやすく,非金属単原子は電子を受け取りやすい傾向にある.したがって,それぞれカチオンあるいはアニオンとして振る舞うと考えられる.ここでは単純化のため,これらの単原子を正・負の点電荷と仮定すると,得られたグラフェンの電場強度分布が吸着原子にかかる力場(Hellman-Feynmanforce)とみなせる.20)したがって,電場強度が極小となるT,B,H6サイトに吸着すると考えられる.グラフェン上の金属原子(カチオン)は図3eの白矢印に沿って力を受けるため,H6サイトに吸着するだろう.一方,非金属原子(アニオン)は負に帯電しているため,白矢印とは反対方向に力を受け,BあるいはTサイトに吸着するだろう.しかし,Tサイトは原子核から外側に向かって大きな電場が発生しているため,実際には電場は極大であ233