ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
都築誠二図6に示す.この入力ファイルを用いるとベンゼン二量体の水素の位置だけを最適化できる.計算にはB3LYP汎関数と6-311G**基底関数系を用いている.分極関数を含まない小さな基底関数系を使うと計算は速いが精度が悪くなる.入力ファイルの4行目のempiricaldispersion4=gd3はGrimmeらのD3法)で分散力補正を行うことを示している.入力ファイルでは初期構造での各原子の位置をCartesian座標で定義している.9行目以降の原子座標を入力している部分では,第1カラムでC,Hの原子種を定義し,第3~5カラムでXYZ座標(A単位のCartesian座標)を定義している.第2カラムの数字は構造最適化の際の原子の位置の固定の有無を示している.第2カラムを-1とすると構造最適化の際に原子の位置が固定される.一方,第2カラムを0にすると,原子の位置が最適化される.前述のQuantum ESPRESSOを用いた結晶構造の最適化と同様の計算機を使い,Gaussianでペンタセン二量体の水素の位置を最適化すると約45分で計算が終了した.また,後で説明する二量体の相互作用エネルギーの計算は約10分で終了した.5.結晶構造の精密化の影響5.1ベンゼン結晶の隣接分子間の相互作用エネルギー量子化学計算による結晶構造の精密化は結晶中の隣接分子間の相互作用エネルギーの計算に大きな影響を与える.ベンゼンの結晶(P2 1/c)を図7に示すが,中央のball & stickモデルで表示した分子は色づけした14個の分子と4 A以下の原子間距離で接触している.結晶の対称性のため,中央の分子と14個の隣接分子との相互作用の中で独立な相互作用は,5種(分子A~Eとの相互作用)である.これらの5種の相互作用エネルギーの計算値を表1に示す.分子間相互作用エネルギーの計算は分散力補正DFT法で行っている.計算にはB3LYP汎関数と6-311G**基底関数系を用い,分散力補正はGrimmeら4のD3法)で行っている.分散力のエネルギーはポテンシャル関数を使って計算されるので6-311G**などの分極関数を含む基底関数系を用いれば,それ以上精密な基底関数系を用いても結果はほとんど変わらない.分極関数を含まない6-31G基底関数系などを使うと,分子の電荷分布の計算が不正確になり,静電力の計算に影響を与える.大きな分子で6-311G**基底関数系を使うことが難しい場合でも,分散力補正DFT法で分子間相互作用エネルギーを計算する際には少なくとも6-31G*基底関数系は使う必要がある.また,基底関数重ね合わせ16誤差(BSSE)はcounterpoise法)で補正している.左側(Crystal)は結晶構造を使って計算した分子間相互作用エネルギーである.一方,右側(Opt)では分子間相互作用エネルギーの計算にGaussianを使った前述の方法で水素の位置を最適化した構造を使っている.結晶構造を使った計算では水素の位置を精密化した場合と比べて引力が強く計算されている.この場合,結晶構造を使うと交換反発力が過小評価されることが原因と思われる.X線結晶解析から得られた結晶構造ではC-H結合距離が短くなっている.C-H結合が短くなると隣接分子間のH…HやC…H距離が長くなり交換反発力のエネルギーが小さくなる.一方,原子間距離が変化しても引力の原因となっている分散力や静電力の変化は比較的小さい.このため,全体として引力が強く計算される.隣接するベンゼン分子の分子間相互作用エネルギーをGaussianで計算する際の入力ファイルを図8に示す.入力ファイルの4行目のcounterpoise=2は分子間相互作表1ベンゼン結晶中の隣接分子間の相互作用エネルギー(kcal/mol).(Intermoleclar interaction energybetween neighboring molecules in benzene crystal.)図7ベンゼンの結晶構造(P2 1/c).(Crystal structure ofbenzene(P2 1/c).)Crystal aOpt bA-2.78-2.36B-2.23-1.99C-2.18-1.94D-1.36-0.90E-0.31-0.32aCrystal structure was used.bPositions of hydrogen atoms were optimized by Gaussian.228日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)