ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
池田拓史た.その後も継続的に改良と機能拡張がなされ最新版RIETAN-FP 8),36)へと進化している.直近ではRIETAN本体について,Le Bail法を発展させたハイブリッドパターン分解や,回折プロファイル幅から結晶子サイズと格子歪みを見積もるWilliamson-Hall plot/Halder-Wagner plotの機能が組み込まれている.リートベルト解析は何らかの初期モデルが必要で,試行錯誤的にモデル修正を行うことは可能なものの,まったく構造情報がない場合は適用できない.今日では,さまざまな手法の粉末データ専用の未知構造解析ソフトウェアがいくつも開発され,初期モデル探索はかなり容易になってきている.詳細は本誌の過去の特集などにあるので参照されたい.ただし,やはり結晶性に難のあるゼオライトなどではそれだけでは解決せず,実験的な補足データが必要不可欠である.そこで筆者がいま最も力を入れている分析法が固体NMR分光法である.知りたい元素(核種)の局所構造がわかるだけでなく,現在ではさまざまなパルスシーケンスや高性能なMAS(Magic anglespinning)プローブの出現で多次元測定および多核測定が可能になってきている.例えばHETCOR(Heteronuclearcorrelation)シーケンスによる異種核間の二次元スペクトルを使えば,アルミノリン酸塩ゼオライトの骨格中のAl原子とP原子の結合情報を知ることができる.ますます複雑化する新規な多孔性物質においては,ハイブリッド多孔体の例にもあるように,固体NMRがもたらす情報なしでは構造決定が困難なケースは今後増えていくと思われる.また近年,透過型電子顕微鏡(TEM)による電子回折トモグラフィーを用いた構造解析が欧米で大きな注目を集めている.Kolbらが提唱したADT(AutomatedDiffraction Tomography)37)は要約すればナノメートルサイズの単結晶から,トモグラフィーを使って膨大な電子回折データを収集し,いくつかの補正を施した強度データセットを作成して単結晶構造解析を行うというものである.ゼオライトに限らず低分子有機化合物でも初期位相の決定に有効なことが示されており,単結晶XRD,粉末XRDに次ぐ第3の構造解析法として今後確実に普及していくと思われる.リートベルト法と組み合わせれば,定量性も十分担保できることから,筆者らも現在取り組みを進めている.4.おわりに本稿の執筆が進むにつれ,改めて筆者自身が粉末構造解析が好きなんだということを実感した.粉末X線回折法には反射の重なりによる情報の欠落という致命的な欠陥があるものの,解析法やソフトウェアの発展によりそれ以上の結果をもたらしてくれる.研究対象に選んだゼオライトなどの無機多孔体についても,骨格構造がもつ美しいトポロジーや,粉末試料しか得られないことが,結果としてモチベーションを高める大きな要因の1つであったと思う.そして今回,歴史ある日本結晶学会より学術賞をいただけたことは大変嬉しく心より感謝すると同時に,これまで以上に背筋を正さなければとの思いも日増しに増している.今後も幅広くナノ空間物質に関する構造研究に真摯に取り組みたいと考えている.最後に筆者のこれまでの研究は,多くの方々のご指導・ご協力により成り立っている.層状ケイ酸塩を用いた研究では,広島大学名誉教授佐野庸治先生および岐阜大学近江靖則先生に多大なご協力いただきましたことを深く感謝致します.CDS-1の開発時には構造解析も試行錯誤の連続でしたが,多くの有益な助言をいただいたことで,結果ゼオライトの新しい合成技術を1つ開拓することができました.またハイブリッドを初めとしたヘテロ元素を導入した無機多孔体の構造研究では,多くの新規化合物を提供いただいた北九州市立大山本勝俊先生に心より感謝いたします.先生との共同研究のおかげで,新規なナノ空間材料創製に向けたテーマ展開だけでなく,それに必要な分析・解析技術も大きく進展させることができました.横浜国立大学窪田好浩先生および稲垣怜史先生には,貴重な新規ゼオライトの構造解析の機会をいただきましたことを深謝致します.産総研小平哲也博士,日吉範人博士,松浦俊一博士,水上富士夫博士には物性評価や電子顕微鏡観察,反応場利用,シリケート合成などで多大なご協力をいただきましたことを深く感謝申し上げます.筑波大学名誉教授大嶋建一先生には,X線結晶学のみならずさまざまなことを丁寧にご指導いただき心より感謝申し上げます.とくに実験に関して教えていただいたことは鮮明に覚えていて,日々研究する上で筆者の根幹になっているといって過言ではありません.最後に物材機構名誉研究員の泉富士夫先生には,粉末回折関連についてはもちろん,研究者としての心構えなど多くのことを指導していただきました.RIETANの高度化に携われたことが,筆者の研究を特徴付ける大切な起点となったことは言うまでもありません.心より感謝申し上げます.文献1)T. J. Mays: Stud. Surf. Sci. Catal. 160, 57(2007).2)A. F. Cronstedt: Svenska Vetenskaps Akademiens HandlingarStockholm 17, 120(1756).3)R. M. Barrer: J. Chem. Soc. 33, 127(1948).4)http://www.iza-structure.org/IZA-SC_FTC.htm5)Y. Li and J. Yu: Chem. Rev. 114, 7268(2014).6)L. McCusker: J. Appl. Cryst. 21, 305(1988).7)H. M. Rietveld: J. Appl. Cryst. 2, 65(1969).8)泉富士夫:まてりあ56, 393(2017);まてりあ56, 453(2017);まてりあ56, 503(2017).9)H. P. Eugster: Science 157, 1177(1967).222日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)