ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No4
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日本結晶学会誌Vol61No4
池田拓史図10 pCF解析で得たゼオライトYNU-5の[001]方向から見た電子密度分布.(Electron density distributionmap of zeolite YNU-5, which was obtained by pCFanalysis,viewedalong[001]direction.)図12ゼオライトYNU-5の[100](左)および[001](右)方向から見た2種類のチャンネルシステム.(TwokindsofchannelsystemsofzeoliteYNU-5viewedalong(left)[100]and(right)[001]directions.)図11焼成したゼオライトYNU-5のリートベルト解析結果;(赤)観測値,(水色)計算値,(緑)ブラッグ反射の2θ位置,(青)観測値-計算値,(黒)バックグラウンド.内挿図は2θ>33°の領域の拡大パターン.(Observed(red), calculated(light blue),and difference(blue)patterns obtained by Rietveldrefinement for calcined YNU-5. The tick marks(green)denote the peak positions of possible Braggreflections. The inset shows magnified patterns of the2θregion above 33°.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ゼオライトが得られることがわかっており,それらの骨格密度(T原子の数/1,000 A 3)が大きなヒントになった.骨格密度の類推からYNU-5の組成を推定し,電子密度修正法であるhistogram matchingとCharge Flippingを組み合わせたpowder charge flipping(pCF)法で位相探索を行ったところ,図10で示す電子密度マップが得られた.骨格を構成する全原子の85%,T原子についてはすべてを見つけることができ,直ちに新規な骨格構造であることが判明した.ここからはモデル修正を行いながら慎重にリートベルト解析を行い最終モデルを得た.解析により単位胞中の組成はSi 108Al 12O 240(K 6.3H 5.7)・0.3(H 2O)と推定された.プロファイルフィッティングは全2θ領域で良好で,R因子は十分小さい値に収束した(図11).YNU-5の構造は非常にユニークで,予想された12-ringおよび8-ringの細孔窓をもつネットワーク状三次元チャンネルとは別に,さらに8-ringの細孔窓をもちa軸に沿った一次元チャンネルが独立して存在している(図12).またK+イオンは8-ringの中心に分布している(なぜかNa+イオンは含まれない).ここには示さないが,合成直後のYNU-5に含まれるOSDA分子は三次元細孔構造の中にかなり密に分布していることがわかった.このような異なる形の細孔構造が交わることなく1つの結晶構造に含まれるケースは非常に珍しく,YNU-5は国産合成3例目の新規構造種として骨格トポロジーにYFIのFTCコードが与えられている.さらに球面収差(Cs)補正付走査透過型電子顕微鏡(STEM)によるYNU-5の観察からは,Si(Al)原子が識別できるほどの鮮明な画像が得られた(図13).双子の8-ringも確認でき解析で得た結晶構造が正しいことを確認できた.それ以上に注目したのが,構造欠陥や非晶質相が少ないことであった.準安定な物質であるゼオライトでは,通常多くの原子空孔や積層不整合などが存在し,またアルミノシリケートは電子線に非常に弱いことから非晶質化しやすい.YNU-5の構造は熱安定性に優れ,酸を使った脱アルミニウム処理でも高い結晶性を維持することがわかっている.このことは構造欠陥が少ないことと強く関連していると考えられる.YNU-5の応用面では,ジメチルエーテルから低級オレフィンを作るDTO(dimethyl ether to olefin)反応において,既存のゼオライト触媒を凌ぐ高い活性を示すことがわかっている.国産発の工業ゼオライトとして,今後YNU-5がさまざまな応用研究を通して高付加価値化され実用化されることを期待している.220日本結晶学会誌第61巻第4号(2019)